「ただでさえ臆病な彼ら」菅野彰

19580091.jpg
東慶大学付属川崎高校の夏目真人は部員の誰からも慕われる陸上部のアイドル的存在。とりわけ真人を慕う村野武彦にとっては先輩後輩といった垣根を越えた恋の対象だった。やがて真人を巡るトラブルから、少しずつ二人の恋が始まってゆく。菅野彰がおくる青春ピュアストーリー。1995年7月刊行(桜桃書房)

運良く入手した菅野さんの絶版本は高校の陸上部を舞台にした群像劇だった。
久しぶりに感想書いたら長くなりました。絶版なのにスミマセン…。

同級生や先輩から「マコちゃん」と呼ばれ慕われる真人、彼に想いを寄せ唯一「先輩」と呼ぶ武彦、陸上部を引退した越智、ある事件を起こして留年をした矢代、真人に強い想いを寄せる柏木、真人が恋する武彦の姉、真人を取り巻く不穏な噂の原因となった元同級生陽子、真人を憎む陽子の親友亜弓。

ザッと書き出してみた登場人物の多さで、改めてこの話が恋愛よりも青春劇に比重を置いた話だということがわかった。中心になるのは部員達から慕われる陸上部部長の真人。強豪とは云えないながらもそれなりに活動を続けてきた陸上部と周囲では、真人のある噂に端を発した武彦と柏木の諍いが起こっていた。根も葉もない噂ではないことを知る武彦は、尾ひれが付いて誇張される話を否定も肯定もせず微笑む真人の真意を察して必死で彼を守ろうとする。しかし、柏木を始めとする他の部員達は納得がいかない。真人が好きだから、彼を貶めるような噂が流れるのが我慢ならないし、本人の口から否定の言葉が聞きたいと思っている。

噂になった過去の事件による怪我が原因で、真人は足を引き摺る癖が抜けない。実際に怪我をして走れなくなった時期はあったが怪我はとっくに治っているのだと真人は笑う。真人の過去に何があったのか。話はその謎(という程のものでもないが)を軸に展開すると同時に、飄々とした真人の内側にある消えないコンプレックスにも焦点を当てていく。小柄で華奢で女顔のいかにも“受け”な真人は人知れずそのことを気に病んでいた。女の子から「カワイイ」と云われてしまう自分のことを。武彦の姉文子はプロレスラーを生業としており、真人は真剣に恋をしていたのだろうが、文子に告白をした際に「わたしなら大丈夫って思うんでしょう?―侮辱よ、そういうのって」と返されてしまう。物理的に強い文子になら「カワイイ」と云われても傷付かないと思ったのかもしれない。何より真人は一度「守ってあげなくてはいけない存在」を手酷く傷付けたことがあり、普通の女の子(文子のように強くはないという意味)と関係する自信を失っていたのだ。

過去の事件には、先輩の越智、留年した矢代も深く関わっていた。事の発端はスポーツ特待生として入学したが実力を発揮出来ずに腐っていた矢代の交友関係による暴力事件だった。矢代は自分が招いた事態の罰を受けるかのように、留年を受け入れ陸上部にも在籍を続ける。越智は結果的に矢代が暴力事件を起こしたのは、自分が矢代の敵に捕まったからだと思っている。責任を取るという形で一度は逃げようとした矢代を学校と陸上部に留めたのは越智だったのだ。そして当時真人は中学生だったが、同じ付属校のジャージを着ていたという理由だけで矢代の敵に捕まり、足に怪我を負わせられる。その時真人は一人ではなかった。陽子という少女と一緒だった。真人の噂は、「彼が少女を置き去りにして逃げ、少女は暴行を受けて学校に居られなくなった」というものだったのだ。しかし事実は違った。暴力を受けたのは真人一人で、少女はその一部始終を目の前で見ていたのだ。

「カワイイ」と云われ続けた真人は、コンプレックスと戦いながらも、そう云われてしまう自分を諦め受け入れつつあったのかもしれない。だから陽子に「守ってあげるね」と云われた時も単純にうれしかったという。だけど、実際に陽子は暴力に晒された真人を守ることなど出来なかった。中学3年生という男女の体格にまだそれほどの差がない時期に、少女と少年が自らの性別の有り様に“誤解”をしてしまうのも無理はないことなのかもしれない。真人は足に傷を負うが、少女は心に傷を負う。自分が見誤ったばっかりに少女の心を傷付けてしまったことを真人はずっと悔んでいたのだ。陽子との苦い再会の果てに二人はもう会わないと約束をする。互いを縛る傷は消えることはないけれど、それでも前進をしようと決意するのだ。

真人は笑う。足の傷も自分のコンプレックスも隠して。それは、真人の抱える物の先に傷付く他者が存在するからだ。矢代や越智を守る為に笑い、陽子を守る為に笑い、部員たちを守る為に笑う。そんな精一杯な様に気が付いたのが武彦だった。読み始めた当初は主人公である武彦の“語り”が15、6才の少年のものとは到底思えず違和感があった。彼らの設定が“大学生”ならばもう少し武彦の心情に近づけるかもしれないのにと思っていた。でも、読了後も武彦に関しては変わらないのだけど、やっぱり彼らは“高校生”で正解なんだなと自然に思えたのだ。部活の先輩後輩関係や、劣等感、起きてしまった事件への責任の取り方諸々、とりわけ部員達から慕われる時の真人の“性別の無さ”のようなものに、私は高校時代の部活を思い浮かべてしまった(大学でサークルに所属しなかったので偏った意見だけど)。物事に白か黒かしかなくて、自分たちの納得する答えを聞きたいと騒ぎ立てる。無邪気な好意は時に残酷だ。でも、その好意に十分過ぎるほど救われている真人がいる。要するにみんな“若い″ということなんだよねっ(そんな結論!?)

真人と武彦の恋愛は一応の着地を見せる。が、私は正直…武彦の恋愛がこの話で成就する必要性は感じなかったかな。失恋をするか、ニアな雰囲気のままキス止まりで終わってくれても構わなかった。真人は武彦の気持ちをわかっているし、自分から誘いをかけるのだけど、その行動は彼が抱くコンプレックスと若干“負けた方に”折り合いを付けたように取れなくもないと思うのだ。真人が文子を好きだというエピソードと、武彦への気持ちは、微妙に繋がっているようで繋がっていないような気がしたのよね。行為の場面がなければ、良質なヤングアダルト小説だったと思う。そして、私が恋愛面で彼らよりも気になって気になって仕方なかったのは、矢代と越智なんだよね!出来上がっている二人(作中では触れないけど)の話が読みたいなぁ。後書によると越智が受けらしいが、私的には矢代が受けでも面白いのだけど。あー、でも主導権はすべて越智にありそうな関係性の二人だから、矢代はヘタレ攻めでいいかもね。

とまぁ、長くなったのに本は絶版という本当に申し訳ない感じですが面白かったです!

続きを読む

「恐怖のダーリン」菅野彰

恐怖のダーリン (新書館ディアプラス文庫)恐怖のダーリン (新書館ディアプラス文庫)
(2000/06)
菅野 彰

商品詳細を見る

きれいで、そして変わり者で有名だった高瀬兄弟の兄・偲が死んだ。残された弟・恵のことを以前から気にしていた亨は、どこかに感情を置き忘れてきたかのような彼を放っておけず、面倒を見る羽目に。雪の中、偲を呼び戻そうとしたのがいけなかったのかもしれない。でもまさか、ほんとに帰ってくるなんて、二人とも思わなかった。まして、死者に恋路を邪魔されるなんて…。スウィート・ホラー・ラブ・ストーリー。

センシティブ云々とか色々考えることを勝手に課題としている「菅野さん祭り」ですが、これはコメディとシリアスが上手い具合に合わさったとても面白い作品でした!そして今まで読んだ中でも一番BLからは遠い話かな。愛はあるけど「性愛」の匂いがまったくしない。そういった欲望が排除されているというわけではないのだが、彼らにはセックスよりも先に話すべきことが山のようにあって、で、気がつけば老夫婦のようになっていそう(笑)

偲はなぜ恵を溺愛したのか。常に側で弟を守り彼を傷付けるものを何人たりとも許さなかった偲の愛し方は、肉親の情としては度が過ぎる程で(実際、偲は下心含みで恵を愛していると云う)結果的に恵は兄以外の人間とまともなコミュニケーションを取ることが出来ないまま成人してしまう。それは周囲の人間からすれば明らかに間違った光景であるのだけど、兄弟のどちらもそれで納得をして幸福そうなので、誰も高瀬兄弟には近づこうとしなかった。でもある日突然偲は死んでしまった。
誰も近づこうとしない高瀬兄弟を亨も同じように遠巻きに眺めている一人だったが、彼は恵に気持ちがあり、兄がいなくなって何も出来ない恵の面倒を見ることになる。亨は私の好きな「世話焼き苦労性兄貴」のようでいて、少し違う。いや、亨の性格設定的には違わないのだけど、恵の想いはどこまでも死んだ兄の偲へ向かっているのだ。恋愛感情以前も超以前「他人だな」と恵が認識しているだけでもマシという二人の関係は、まったくのゼロから始まるのだ。

最初からある愛の謎は偲から恵に向かうものなのだ。亨は主人公でありながら脇役のようでもある。二人の関係を取り持ち、互いが最良の未来へ歩を進められるように促す名脇役だ。「なぜ偲が自分を愛してくれたのかわからない」と泣く恵の為に、亨は偲を生き返らせる儀式を行う(コメディですよ!)。そして偲は帰ってくるのだが、まぁ普通にゾンビなんだよね(笑)偲は自分の愛し方が恵にとって良いことばかりではなかったことも重々承知しているし、恵が何も出来ないのは自分の溺愛が原因だとわかっている。でも決して悪びれる様子はない。他人がどう思おうと、その方法が自分と恵にとって必要だという固い信念があるからだ。

偲は強烈なファザーコンプレックスを持っていて、父親を憎むことで生きていたような所がある。
愛することを知らなかった父親の代わりに、彼は恵にありったけの愛情を注ぐことを決めるのだ。それは、父親と同じような人間になっていく恐怖に抗う為に選択した彼なりの戦い方だった。自分のすべてに父親の影を感じて生きていた偲には「恵を愛すること」だけが、唯一の支えでもあったのだ。恵は望まれない子供で、父親にとってはどこまでも「施しを与えるべき子供」だった。愛情と同情の違いを恵は感じたのだろうか。恵は他者から「愛される」という感覚を失ったまま成長する。だったら自分が与えようと偲が決意することに、その愛情のかけ方の正否を周囲が判断することは出来ないと思うのだ。ただ、偲は常に不安を持っていた。それは自分の愛が真似事かもしれないという不安だ。

帰ってきたものの死者は死者。偲が振りまく災厄は近くに居る恵と亨に及ぶようになる。本当の別れが近付いていると察した偲は、最後に自分が死んだ朝に起きたことを告白するのだ。最初の動機は不純でも偲が「愛そう」という強い意思の元で恵を愛した事実には何の嘘もない。「幸せだったよ」と云う偲の言葉には本当にもう後悔はないのだろう。
偲が生きていれば、恵はやはり以前と変わらない庇護の元に赤ん坊のような精神のまま成長を止めていたかもしれない。そしていつか偲が死んだとき、今のように亨がいなければ、遅かれ早かれ偲の後を追ったかもしれない。でも、それでも偲の死は惜しまれるものなのだ。誰も望むことがなかった唐突な死は悲しい。悲しいなんて言葉じゃ足りないぐらい本当に悲しい。何を当然のことをと笑われそうだが、心からそう感じた。

死の物語の近くには生の物語を。榎田さんの「魚住くん」を読んだときも感じたが、バランスだとか綺麗事だとかではなくて、死と生は一緒に語られるべき題材なのだと思う。後半の生の物語があるから偲の死はやはりとてもとても悲しく残念なことなんだと認識出来る。生きていれば良かったのに、と誰もが思う死者への悼みだ。
恵は生まれたての赤ん坊が成長するかのように新しい感情を少しづつだが覚えている。彼らはこれからもたくさん対話をして生きていくのだ。偲と亨が精一杯注いだ愛情を恵が他者に返せる日はきっと近い。

良い本を読みました。

続きを読む

「愛がなければやってられない」菅野彰

愛がなければやってられない (新書館ディアプラス文庫)愛がなければやってられない (新書館ディアプラス文庫)
(1999/04)
菅野 彰

商品詳細を見る

超人気漫画家・安藤由也を育て上げた敏腕編集者の志賀耕介。二人は再従兄弟同士で、そうとは知らずに実は互いに恋しあっていて……。生活能力0の由也と、日々原稿を取ることに血道をあげている耕介。そんなふたりの間に「愛」は生まれるのか!?表題作ほか、続篇「もっと愛がなければやってられない」、書き下ろし「さらに愛がなければやってられない」を収録した、コミカル・ラブストーリー!!

有言実行ということで菅野さんの未読作品です。
10年以上前、まだ晴天シリーズにも出会っていない頃に刊行されたのですね。どこかで聞いたような設定の主人公達だけど、菅野作品は結局のところ「繰り返し」の物語ではないかと思うのです。書かなければ、と作家が思っている関係性が絞られている。その狭さとはイコール作家の技量の低さというわけではなくて、例えば樹生さんの受けと攻めの関係性の類似や、長野作品で兄と弟の執着愛が繰り返し描かれてきたのと同じこと。何でも書ける作家さんも素晴らしいけど、個人的には「これしか書けません」と頑なさを貫く作家さんの方が好きだったりします。
しかし、今作は菅野さんにしてはBLらしい話!
おまけにエロがしっかり入ってる!(あくまで菅野さん基準です)
そして関係ないけど主役二人の名前が普通だ!←実はこれが一番驚いた(笑)

「愛がなければやってられない」
ダメ作家と敏腕編集といえば晴天以外でも割とよく見かけるCPだけど、今作で特筆すべきは由也の生み出す作品が誰の為のものなのかという点。創作をする切っ掛けというのは当然人夫々だけど、最初に耕介という「読者ありき」だった由也は、ドル箱作家になった現在も耕介の為にと漫画を描き続けている。しかし、幼い頃は純粋に「作品」を求めていた耕介が、月日が経って大人になった今は「看板作家として」作品を求めていることに由也は気が付いてもいる。自分と耕介の関係が望むものではなくなってきている落胆と、耕介の担当移動、結婚の話などが重なり逃げ出してしまう由也。
創作をするという点では子供の頃から情緒がまったく成長していない節がある由也を、耕介はずっと面倒を見ているのだが、耕介は仕事を通じての由也しか長いこと見ようとしていなかった。それは私情を挟めば認めたくない恋愛感情に支配されるのを耕介はずっと前から気が付いているからに他ならない。だから耕介には由也がいつまで経っても子供のままに見えるのだ。大人になった筈の由也を見ていない、見ようとしていない。オラオラ口調で俺様の耕介が苦手な方もいるかもしれないが、しつこく云っているように私は「世話焼き苦労性兄貴」が大好きなので耕介は大変美味しいキャラクタでございました♪元々想いあっている二人のドタバタラブコメなので展開もわかっているのだけど、久々の菅野コメディ堪能しました。

「もっと愛がなければやってられない」
子供だと思っていた由也(ちなみに年齢は由也の方が2つ上)に男の恋人が居たことを知り衝撃を隠せない耕介。最中にも積極的になられては昔の男が思い浮かんで凹むという理由から由也には何もさせないという逆ヘタレっぷり。いかに自分が由也と向かい合うことを避けていたのかを思い知らされうな垂れるのだけど、結局核心には触れることが出来ないままグルグルする耕介。おまけに由也の将来を心配した彼の兄が上京して由也の恋愛事情に言及する事態に。幼い頃から男らしくなく、女の子と遊ぶことを好んだ由也のセクシャリティを家族は薄々気が付いていて、それでも彼が「幸せならば」と云うのだ。しかし耕介は元彼との事情を兄から聞いてしまい、ますます自分が由也を幸せにしているのか自信がなくなっていく。元彼の正体には驚いたけど、なるほど伏線は十分にあった。しかし狭い世界でアレコレやっていたのに気が付かなかった耕介の鈍さが笑えます。元彼と家族の茶々(良い意味で)が入りつつ、雨降って地固まる的な後日談。

「さらに愛がなければやってられない」
書き下ろしはまさかの由也と元彼の逃避行。
まさに「愛がなければ」とっくに堪忍袋の緒が切れて、ついでに血管も切れて憤死していそうな耕介の苦労が偲ばれる話。昔からずっと近くに居たお互いへの「過信」が改めて表出して一歩前進、対話をしようと気が付く話でもあるかな。元彼が出張ってくるのは個人的にあまり好きではないのだけど、そして元彼の逃避理由の顛末もモゴモゴなのですが、傍からみれば単なるバカップルの二人が愛おしかった。


この二人はこれから先もずっと一緒に居るんだろうな。何の疑いもなくそう思えるのは、菅野さんの小説を読むと「人間関係→恋愛関係→人間関係」という構図が浮かぶからだと思う。恋愛をする以前にも以降にも彼らの間には変わらない関係性があって、それも含めて責任持つよと云っているような(うぅ、わかりにくい)。自分と他者を隔てる垣根の飛び越え方のスケールが大きいの。それはコメディでもシリアスでも同じなんだよね。良い本を読みました。面白かった!

「17才」菅野彰

17才 (ディアプラス文庫)17才 (ディアプラス文庫)
(1999/08)
菅野 彰

商品詳細を見る

八隅は夏の到来とともに、高校生活のすべてをかけてきた陸上部を引退した。陸上で大学推薦を決めて、走り続けているのは司馬だけ。ありあまる才能を持ち、傲慢なほど奔放な司馬だが、八隅との恋に苛ついている。何度体をつなげても、届かないものがあるようで…。そして二人は、夏の終わりの海を目指す―。湘南を舞台に描く、センシティブな二つの恋の物語「17才」と「向こうの縮れた亜鉛の雲へ」を収録。

恋愛小説は私にとって他人事である。小説のように相手を強く想い慈しむことが出来れば、それはとても素敵だし幸せなことだと思うのだが現実を省みてみれば…まぁ、とにかく他人事なのである。だから過剰な感情移入をせずに楽しむことが出来るのだ。
だけど菅野さんの「17才」「亜鉛の雲」は、私に他人事だという俯瞰した立場を許さない小説だった。
過去のどんな場面を探しても、私には彼らのようなやり方で他人と関わった経験はないし、きっとこの先もないと思う。それは彼らの関わり方が理想的では決してないからだ。むしろ御免だとさえ思っている。と同時に、どこかで憧れに似た気持ちを抱いているのだ。自分には絶対に出来ないしやりたくもない。でも、魅せられる。もしかしたら自分は、そういった関わりを持つ機会を逸して今に至っているのではないかという不安にも近いような。とにかく彼らの関係の圧倒的な「何か」が私を惹きつけてやまなかった。「晴天」の大河と秀の関係に畏怖のような憧れを抱くのと根っこではすべて繋がっているのかもしれないな。これは普段読んでいるBLとは一線を画す小説だ。一般書を読んで感情を揺さぶられるのと近い感覚というか、描かれているのは確かに「恋愛」なのだけど、2作品とも恋愛以前の各々の問題がテーマになっている。

ところで以下は呟き上で「センシティブとは何か?」という話題になった時にスッと出てきた言葉なのだけど、自分のことだから当然なのだが、結構的確に思うところを表現出来たのではないかと思っている。

私の傾向としては「抑えた(静かな)語り口」で「他に語り方がなく(ファンタジー、コメディ、お仕事etc)」登場人物が、相手との恋愛以前の「自分の問題(内省的)」で、相手との関係に支障をきたしつつ、克服をしたり成長したり諦めたり(?)する心の変遷にテーマを絞った話に思う事が多いかな。
そして「17才」は紛れもなくセンシティブな話だった。

「17才」
普段高校生物を好んでは読まないが「逃避行」には思い入れがある。必ず終着点のある逃避行というのが好きなのだ。
彼らは永遠がないと思っている。永遠は「死」という形でしか得られないと思っている。それは彼らが高校生という不自由な時間を生きる子供だからだ。相手に過剰な期待を寄せる為の保険も持たず、期待に添えるだけの確固とした答えも持たず。八隅は自分が司馬と同じだけの重さで気持ちを返すことが出来ないのを知っているし、司馬も八隅の気持ちが自分の重さとは質が異なることを知っている。互いを想う心に偽りはないのに、彼らの間には歴然とした温度差がある。
同じ重さで返すことが出来ないから八隅は司馬の心中に付き合おうとしていたのだ。
他に証明する手段を持たないから、彼が欲しがるものすべて渡してしまおうと。
「高校生だから」「まだ若いから」そんな言葉で彼らを括ってしまうのはとても失礼なことかもしれないが、他者に対して何一つ直截的な保証や約束を与えることが出来ない彼らの姿は、私が思うところの正しい「高校生物」なのだ。彼らの未来は見えない。あまりにも切ない関わり方をしている17才という瞬間だけが存在するかのように。だけど見えない分、どうにでも切り開いていけるのだという心強さがあるのも本当だ。私は二人の未来は「大丈夫」だと信じている。

「向こうの縮れた亜鉛の雲へ」
「17才」でちらっと出てきた八隅と司馬の先輩である弓田英一が主人公。
事故に合い陸上選手生命を断たれた英一と、女生徒と問題を起こして教師を辞した遠縁にあたる徭の物語。
徭のやっていることは情の押し売りである。後書で菅野さんが仰るように、徭なる人物は晴天の「秀」にとてもよく似ている。情を必要とする人間を嗅ぎ当て、無償とも云える真摯さで与え、自分は何も求めない。そうやって相手の懐にいきなり飛び込む(飛びこませるのではない)のは、彼自身が情を必要としているからに他ならない。情を与えられた相手の「渇え」はいつか癒える時がくる。その時相手は初めて気が付くのだ。求め方を知らない恋人の空虚さと、「問題がなくなった自分は彼にとってはもう必要がない存在なのではないか」という事実に。それはあまりにも残酷な関係だ。
終盤、年若い英一が「抱かないよ」と宣言することの困難さは置いておいて、その結論に打たれた。まるで「晴天」で熱を持たない秀の身体を抱くことを拒絶した大河のようだ。その結論は徭にとってみれば難しい宿題を与えられたようなものかもしれない。彼らの先にある関係は、もしかしたら「恋人」ではないかもしれない。だけど、正しいかはわからなくても、一人の人間と出会い、その人間の根っこにある問題をどうにかする為に、自分を含めた関係を再構築しようとする英一の姿に感動した。彼らはこれから新たな関係を始めるのだ。


自分と他者の間には分り合えない遠さがある。近づいたり駆け寄って飛び越えようとしたり、ひとつ越えてもまた違う問題が出てきたり。それでも関係を持とうと足掻く登場人物の不器用さと真摯さが好きだ。彼らが懸命になるのはもちろん「恋愛」に寄るのだけど、それだけではない必死さを感じて眩しくなる。
菅野さんの描く関係性は、恋愛関係というよりも人間関係なのではないかな。
だから私はやっぱり菅野さんの小説に憧れているのだ。



続きを読む

一周年記念「毎日晴天!」菅野彰

気付けばブログを開設して1年です
まだ1年なのか、なんだかもっと長いことやっている気がするなぁ。コンスタントによく読みよく書いたなと我ながら感心しますが、きっと今後もこんな感じでダラダラいくのだと思います。改めて、遊びに来て下さる方々に感謝です。どうもありがとうございます!
記念に何か特別な本をと思い、大好きなこの小説について感想を書いてみようと思いました。

最も心に残っているBL小説は何ですかと聞かれたら私は迷わずこの小説をあげる。というか、BLと括らなくても人生においてとても特別な位置にあるし、大袈裟だけどなんというか唯一無二の存在です。新刊が出ていない為かブログを始めてからの1年間、「毎日晴天」についての記事を他所様で拝見したことがない(もちろん検索をすればあるのだろうけど)。だから私は正直この小説がどういった位置にあるのかよくわからないんだよね。えーと、「魚住くん」に匹敵しませんか?私の中ではそれ以上なのですが、そんなことはないですか・・・。
ただ困るのは、3組のカップルが出てくるのですが、そのカップルへの温度差が私の中で激しいこと。平たく言うと、大人カップルに比べて花屋カップルはともかく、子供カップルへの思い入れが薄いのですよ。一番波乱万丈なのに。今回良い機会なので読み返したことがなかった子供カップルを再読してみようかなとも思いました。しかしそんな悠長なことをしていたら結局1年記念なんて飛び越えてしまう気もします。なぜなら大人カップル以外の巻は実家に置いてきてしまったので、家に帰らないと読めないから(笑)宅急便を頼もうにもあの本近辺は危険地帯過ぎて家族を近寄らせられない(「晴天シリーズ」は表紙的に大丈夫だと思っているけど、それも間違いな気が・・・)というわけで、大人カップルに絞って吐き出したいと思います。

記事を折りたたむのがあまり好きではないのですが(自分が読みにくいので)、今回ばかりは本気で先にお断りをします。いつにも増して自己満足風味が強く、長いです。11巻に及ぶ物語をまとめようとした私が無謀でした、スミマセン。


注:記憶を頼りに書いている部分が多々あります。どうかお見逃しを。

続きを読む

プロフィール

yori

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード