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「ファンタジウム」(杉本亜未)

今日は寒かったですね。久々の休みということで色々出掛けてきました。
その1 寒風吹きすさぶ中不動産屋へ家賃を払いに(近いので毎月届けているのです)行くも休み。
その2 銀行へ旦那から徴収したボーナスを振り込みに行くも長蛇の列に負けて退散。
その3 トジツキハジメ先生の『徒然』特典ペーパー付を買いに行くも発売日は明日・・・。

師走の街の慌ただしさに負けそうになりながらもとりあえず本屋で漫画を数冊と、ちょっと高めの鞄を自分へのプレゼントに買いました。予定どおりにBLコミックも買ったのですが、ずっと読みたいと思っていたこの漫画が素晴らしかったので、こちらの感想です!

ファンタジウム(1) (モーニング KC)ファンタジウム(1) (モーニング KC)
(2007/06/22)
杉本 亜未

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ファンタジウム(2) (モーニング KC)ファンタジウム(2) (モーニング KC)
(2008/02/22)
杉本 亜未

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ファンタジウム(3) (モーニング KC)ファンタジウム(3) (モーニング KC)
(2008/09/22)
杉本 亜未

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紳士淑女の皆さん! 摩訶不思議な手品の世界をご覧に入れましょう!少年は何ものにも従わず、軽やかに己の道を歩む。マジシャンとして天性の才能を持ちながら、何ものにも縛られることなく自由に生きる少年・長見良。マジシャンだった祖父・龍五郎に憧れて育ったサラリーマン・北條。龍五郎が生前にとった唯一の弟子だった良には、ある秘密があった。そして、良の才能に魅入られた北條は、ともに歩んでゆく。

手品漫画ってありそうでないですよね。以前3巻が出た時に三浦しをんが帯にコメントを寄せているのを見て気になっていたのですが、なかなか売っていなくて未読でした。「この漫画がすごい!2009」の10位に選ばれたためか大きく展開していました。杉本亜未といえば『ANIMAL X』という生殖系BL(そんな言葉はないけど)が有名ですよね。いつか読もうと思っていたのに絶版のようです・・・。そう、元々耽美畑の作家で三浦しをんのおススメとあれば、私のセンサーに引っかからないわけがない(笑)
腐への期待も多少はあったのですが、それも吹き飛ぶ面白さでした。
面白いといっても「胸がすく」という意味の面白さではありません。天才少年を狂言回し的役割に据えたエンタメ漫画かなーと思っていた予想は完全に外れました。この漫画は手品という題材を通して人が生きていくこと、本当の意味で「生きていく(自分自身を肯定して生かされる)」ということを真正面から描いている漫画です。
絶対的な手品の才能を持つ主人公にはある障害があって、そのせいで彼は誰にも理解をしてもらえない苦しみを抱えていた。ひねくれていて妙に達観しているのに子供っぽい良の人物造詣が絶妙です。ふてぶてしくて強いのに、繊細で可愛い。すっごく可愛い。イジメや偏見を淡々と受け止めて、ただ手品だけを心の拠り所として自由に生きている。それはとてつもない孤独だと思うのですが、手品を見せている時だけは、良は一人ではないんですよね。平凡なサラリーマンの北條は良の才能に魅せられて、彼をプロマジシャンとして成功させるため、そして障害というハンデを克服させるため親代わりとマネージャーの両方を買って出るのです。でも北條には常に良の才能に依存しているのではないかという葛藤もあり、良の進むべき道を二人で模索している状態。手を伸ばせばすぐにでもプロの道が開けるだけの才能がある。でもビジネスとして消費される日本の芸能活動には抵抗があって・・・・。

北條との出会いによって良は少しずつ変化をするのですが、それでも一番変わりたいと願う障害のことについては前進しても、劇的な変化は訪れない。
二巻のラスト、リンチにあった良が「奇跡は起こらないことを知っている。それでも・・・」と目を閉じて3秒数えると手のひらの先には北條の姿が。一番好きなシーンです(腐的にも)。
信頼を寄せる人間に出会うこと。一生を費やすだけの何かを持っていること。「生きていて良かった」と自分を肯定すること。普段は気にとめないけど、とても幸せなことなんですよね。
良と北條は今後もともに歩くのか、良は活動の場をどこに広げるのか、先が楽しみな漫画です!



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「女に生まれてみたものの」(菅野彰)

毎日毎日クリスマスプレゼントの本を包んでは投げ包んでは投げ!
お客様、本当にそれ包む意味ありますか?計算ドリルとか、ラッピングする意味ありますか~!?
連勤で心が荒んでおります。

onnaniumarete.jpg

アイドル修行で女義太夫、女子アナ目指して紙芝居!?ひょんなことから始まった「大人の女」修行。宿敵長州娘と日本全国西へ東へ大暴走!愛と涙の勘違い珍道中を描いたノンストップ爆笑エッセイ。 第1回 奇縁で始まる目指せ団鬼六の女;第2回 昨日の敵は今日も敵…謎のアイドル稽古;第3回 先行く人の後追って、ルーツを求め田舎に寝転ぶ;第4回 目指せ朝ドラヒロイン…はもちろん甘くないのであった;第5回 寛容を求めて、長州紀行;第6回 人生勉強!美人海女との出会い!!;第7回 東北温泉町のハワイでスワンを目指して…;第8回 会津紀行;第9回 難波の紙芝居師、駄菓子の後を追いかけて;第10回 おとっつぁんそれは言わない約束だよ。孝行娘を目指してラストチャンス!;第11回 雪の露天風呂、女子高生とともに明日を思う

菅野さんのエッセイとあれば買わないわけにはいきません。菅野彰といえば私にとってはもちろん『毎日晴天シリーズ』だけど、『海馬が耳から駆けてゆく』でエッセイストとしての菅野さんの才能を知った後はエッセイの方が楽しみになってしまったぐらいです。上記の通りの体験物エッセイなのですが、「大人の女になる」なんてお題目は早々に山の彼方に吹っ飛ぶ脱線具合が笑えます。なんというか、やっぱり私はこの人がとても好きだなーと思うのです。ダメな大人でも、菅野さんはたぶん本当に優しい人で、色んなことに戸惑いながらも一生懸命に咀嚼して生きているような気がする。真摯であろうとしている。勝手な印象ですけどね。それにしても会津と長州の因縁ってそんなに深いの!?カルチャーショックだよ。
ただ、やっぱり『海馬』には及ばないです。最初に読むのなら新書館から出ている『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』と並んでそちらをおススメします。もちろん一番のおススメは『毎日晴天』なんだけどね!菅野さん、早く晴天の続きを・・・。

表紙とタイトルが「女性向け恋愛指南書」っぽくて買うのが少し恥ずかしかったです(笑)

「黄金」つづき

今日はですね、旦那と休みを合わせてお寿司を食べに行く予定だったんですよ。ボーナスも出たしってことで。で、食べてきたんですけど・・・一口食べる毎にモモが最期に食べた箱寿司が思い出されて、ビールのせいもあり本気で涙ぐみました。お、美味しく食べられなかったよ幸田さん。やっぱり寿司に牛乳ってチョイスは私もなしだと思うよ。
感情の高まりを誰かにぶつけたくても隣には旦那しかいないわけで・・・「読んでた本の登場人物が最期に食べていたのがお寿司だったの~」と言ったら、「どうせホモだろ」という返答が(笑)「違うもん、高村薫だもん!」と反発するも同人誌を嬉々として読む姿を見られているので無駄でした。

さっきまでは幸田さんは受けだと思っていたんだけど、モモが女装したのってもちろん追手の目を欺く為というのもあるけど、もしかしたら幸田が一線を越えるのを手助けしたのかなーなんて思えてきたんだよね。二人がどこで「そういう関係」になったのかよくわからないけどさ。あの幸田がどんな風にモモを愛して、モモは愛されたのだろうなんてことを思うと今更ながら切なさがこみ上げてきました。そして妻子を失った北川の喪失感が金塊奪取後の彼を襲うことは必至で、それを北川はどうやって乗り越えるというのか。「暴力と君臨」と幸田に言わしめた北川の本質は一体どこにあるのだろう。黄金を手にして愛する人たちを失った二人の行く末に一対何があるというのだろう。果てしない虚無ではないことを祈るばかりだ。
終盤で北川が幸田をこう表するでしょう。「犯罪を重ねることによって、自分の皮を一枚一枚剥ぎながら、これでもか、これでもかと自分を探しているようにも見えた。誰にも優しくなかったが、自分自身に対して、最も優しくなかった男だった」何でも見通す目を持つ北川の言葉だからこそ、心に響くものがありました。幸田のモモへの想いだけは北川の予想以上だったというのがまた切ない。
高村薫は男の絶対的な孤独のようなものを描こうとしているのかもしれない。身を焦がす熱に侵されて、破滅へと向かうことを恐れない孤高の存在。高村先生の男たちはなんて気高く美しく、悲しいのだろう。

唐突に大阪に行きたくなりました。冬の大阪。「黄金」の空気を吸ってみたい。

「黄金を抱いて翔べ」

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銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取せよ。大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企んだ、大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムは、果して突破可能か?変電所が炎に包まれ、制御室は爆破され、世紀の奪取作戦の火蓋が切って落とされた。圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた著者のデビュー作。日本推理サスペンス大賞受賞。

高村薫先生のデビュー作です。
最初に一言、ものすっごく面白かった。
ネタばれあります。

同人誌きっかけというのが恥ずかしいですが、羽海野さんの「青いカラス」に少しだけ入っていた「黄金」が気になり、早速読んでみました。そしたら・・・これ、すごく好きです。「合田3部作」や「李歐」に比べてあまり知名度がない気がするのですが(そんなことはないのかな?)、ストーリーも登場人物の魅力も引けを取らないと思います。主人公であり当事者の幸田の視点でほぼ全編が語られるため読みやすかったです。同人誌を読む前は、老獪な男達(50代)のピカレスクロマンなのかなーと思っていたのですが、主人公達は29歳でした。それにしても、幸田にせよ北川、野田にせよ「何故」という動機の部分が語られないのが最初は不可思議でした。動機付けをしたくなるのは、エンターテイメントというには硬質すぎる高村先生の文章に惑わされるせいかもしれません。でも「黄金」は何というか、しなやかに筋の通った一級の犯罪小説なんですよね。そこにはバックグラウンドなんて味付け程度で十分なんでした。
金塊を盗む。ただそこにあるから盗む。そうやって生きてきたから盗む。
個々の事情も社会的主張もすっ飛ばして「盗む」。
その痛快さに眩暈のような高揚感を覚えました。

6人のメンバー紹介を。主人公の幸田は学生時代からアングラ系の活動団体の物品調達屋をしている盗みのプロ。計画の発案者である北川は幸田の同窓で表向きは立派な一般社会人で妻子持ち。大きな身体に広い心と繊細な優しさを持った男盛り。私的にこいつが一番謎です。大変魅力的ですが。北川の弟でまだ10代の春樹。春樹は幸田を押し倒して乳首を弄くりまわすというツワモノです。この兄弟はとにかく幸田という虚無的な男に魅了されている部分が多くある。そして北の工作員で現在は北、南、日本の公安から追われている爆破工作のエキスパート「モモ」。モモの存在が幸田を少しずつ変えていくことになる。あと、銀行内部に詳しい野田と岸口老人(野田もとても魅力的だし、岸口老人に関しては驚きの伏線と結末があり重要人物なのですが)。羽海野さんの同人誌を最初に読んだので、もれなく全員羽海野さんのキャラクターで脳内補完されています。だってピッタリなんだもの。黒髪に切れ長の瞳で静かに微笑むモモなんて、羽海野さんのモモ以外には考えられないし、個性がないようで色気の漂う幸田の細い身体も、北川の気のいいアンちゃん風長髪も素敵すぎる!

高村先生はデビュー作から「男惚れ」の世界を描いていらっしゃったのですね。後半、幸田のモモへの想いが明らかにされるところでは思わず「えっ」と声に出してしまいました(笑)そんなー、匂わせるとかじゃなしにハッキリ仰るなんて素敵すぎるだろう。幸田の抱える厭世的というのでは甘いぐらいの、世間に対する憎悪と無関心がたまらなくツボでした。「人間のいない土地へ行きたい」が口癖の幸田が、ぎりぎりの処で現実に留まって、生きることを諦めているわけではないのも好きでした。
高村先生の、突然過ぎる「死」を過剰な演出なしで登場人物達の胸に納めるやり方にはいつも驚いてしまうのですが、「黄金」はある程度覚悟をしていたので大丈夫でした。それでも「モモ~!」と叫ぶことは止められませんでしたが。ああ、そうなるよね。今まで生きて来られた方が不思議だったのよね。幸田はモモを生かしてあげたかっただろうに・・・。北川と幸田は一体どこに向かうのだろう。北川は幸田が変わったというけれど、結局は二人から始まったことだったんだよね。幸田が「人間のいる土地」でも生きていけるようになったと示唆する結末は、単純なハッピーエンドとは言えないけど二人の行く手を明るく照らすものだと信じたいです。まあ、北川といれば幸田はたぶん大丈夫。
それにしても高村先生・・・私は「幸田総受けだー」と思わずにはいられませんでしたよ(笑)女装したモモが相手でも幸田は押し倒されていると思います。幸せそうに笑うモモと、モモに見惚れる幸田が目に浮かびますよ。「モモさん」「幸田さん」と呼び合うのがツボでした。ああ、好きだー。
兎にも角にも大満足の一冊でした!


関東甲信越以南に縁のない人生なので、物語られる土地(特に南)への羨望は尽きません。
『黄金を抱いて翔べ』の舞台は大阪です。
逃亡者は統計的に南に向かうというけれど、私はきっと大阪には行かない(何の話だ)。どこに居る自分を想像しても、大阪に居る自分というのはどうも違和感がある。そのくらい、大阪という地は私にとって魔的な存在です。身近に人にとってはだから何だという話ですが。

今度こそ一般書は読み納めかな?作中と季節的にシンクロしていたのがちょっと嬉しかったです。

「サミア」(須和雪里)

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これはすごい!
一読して言葉を失いました。
なんちゅう面白さだ。
10年前に発売された小説の新装版です。短編が3作収録されています。

私は滅多なことでは本を読んで泣いたりしないです。「泣きそうなぐらい」というのはよくあるけど、そもそも「泣ける」からいい本だという風潮が腹立たしい(巷に溢れるやたらと人が死ぬ小説とか。人が死んだら哀しいのは当たり前じゃない)。こんな前置きを言うからには、はい、本気で泣いてしまいました。
表題の「サミア」は高校生×エイリアンというとんでもない設定なのに、とても切なくて不思議な読後感でした。もう一度言います。高校生×エイリアンですよ?しかも普段は人間の金髪美青年なのに、実物は本当にエイリアンの姿形(描写が気持ち悪い~)をしているんですよ。今だったら商業誌的には有り得ないよね。激しいシーンも男性器の描写もなくて、あるのは控えめな「声」だけ。ああ、これが「JUNE」なんだ。恋やらときめきやらを通り越して宇宙論のような壮大な「愛」に静かに一足飛びしてしまう感じ。萌えとは違うんだけど、好きだなぁ。

しかし泣かされたのは同時収録の「いつか地球が海になる日」でした。
短編なのにこの濃さは何事だろう。
内省的で暗くてトラウマ物で―それを「俺は変態である」というユーモラスな一人称で包む意外性。男の苦痛に歪む顔によってしか性的興奮を得ることが出来ない主人公。そんな彼はあるクラスメートと親しくなったことから彼一人を傷つけてみたいという欲求を抑えきれなくなる。女友達のアドバイスを元に家へ押し掛けてクラスメートを押し倒そうとした所、実はゲイだったクラスメートに逆にヤられてしまうことに。ああ、あらすじを説明しても面白さはちっとも伝わらないよー。
彼が男の苦痛=涙に執着するのには理由があって、それは彼が小学生の頃に書いた文集でわかるんだけど、とにかく読んで欲しい。

「ミルク」は「いつか地球が」からは一転して笑撃作!事故に合い目が覚めるとなぜか嫌っていたクラスメートの飼っているハムスターになっていた主人公!これは面白い。普通に声を出して笑ってしまいましたもん。一番先が読める話だけど、ミルクこと俺の懊悩っぷりが間抜けで可愛くてもう大好きだ。しかも掲載時のタイトルが「やばいでCHU!」って!!(笑)

この著者を知ったきっかけは他ブログ様のレビューだったのですが、現在入手可能な本はほぼゼロ。だから「サミア」が新装版になって本当に嬉しかった。最近良作の「JUNE」が復刊する流れがあるらしい。私にとってのJUNEって、かの有名な「小説JUNE」ではないんだよね。名前だけが残ってエロコミックに移行した後の雑誌しか知らないの。それがとても残念だったので、復刊が増えてJUNE小説がもっと読めるようになるといいな。
ところで私はよく「JUNE的」というふうに作品を表するので、自分の中ではBLとJUNEの曖昧な区分けが存在するけど、一般的にはどんな境界線が引かれているのだろう。気になるところだ。

「窮鼠はチーズの夢を見る」(水城せとな)

kyuso.jpg

12月ということでランキングの季節ですね(?)

個人的に06年に出版されたこの漫画を超えるBL漫画は未だにない気がします。
好きな作品、好きな作家はたくさんいるけど、「窮鼠」を読んだ時の心臓を鷲掴みにされたあの感覚。「BL」として発表される漫画には決してない緊張感と切なさがあった。水城先生はBL出身だけど現在は少女漫画で活躍されている方で、「窮鼠」が「Judy」に掲載されていたと知ったときは衝撃でした。大袈裟だけど、ひとつの事件だったと思う。
ただ私は水城先生があまり好きではないのです。「窮鼠」の続編として携帯コンテンツに発表された2作品を食い入る様に読んだけど、涙したけど、あの終わり方は辛すぎる・・・。作品は作者のものとはいえ、読者の期待を100%裏切るってどうなんだろうと思ったのですよ。「放課後保健室」もそうだったな。先生の中では違うのかもしれないけど、バッドエンド好きとして有名だそうで。
続編を読んだことで、単純に「好き」と言えなくなってしまった「窮鼠」だけど、それでも本当に素晴らしくてやはり大好きな作品なんです。

優柔不断な性格が災いして不倫という「過ち」を繰り返してきた恭一。ある日彼の前に妻から依頼された浮気調査員として現れたのは、卒業以来会うことのなかった大学の後輩・今ヶ瀬だった。ところが、不倫の事実を妻に伝えないことの代償として今ヶ瀬が突き付けてきた要求は「貴方のカラダと引き換えに」という信じられないもので・・・。

同性愛者とノンケの恋愛が圧倒的にリアルに描かれていて、男が男と寝ることへの抵抗と違和感や、ノンケを一途に想ってしまうゲイのやるせなさが痛いぐらい伝わってきました。恭一のズルさや弱さ、優しさが本当にリアルで、こんな男いそうだなーってずっと思いながら読んでいましたね。来るもの拒まずで決して自分から人を求めようとしない「流され侍」。恭一の優しさって相手に合わせている部分が大きくて、元妻もそんな性格に嫌気がさして出て行ったんですよ。そんな自分の欠点も恭一はよくわかっていて。長所と短所は紙一重といいますか、決定的な欠点ではないのがまたリアルでした(しつこい)。だって、恭一は確かに優しくもあるんだもん。
今ヶ瀬に脅されてキスされてフェラされて押しかけられて、同棲まがいのことを始めて。それでも今ヶ瀬の用意した逃げ場通りに「一時のことだから」と自分に言い聞かせて関係を続ける恭一。そこにもたぶん「同じ男だから―」という心理が働いていると思うんですよ。女の子には優しくしないといけない、でも今ヶ瀬は男だから損なっても大丈夫だろうっていう。そんな中途半端な気持ちを今ヶ瀬の元彼に指摘された恭一は今ヶ瀬に別れを切り出すわけだけど、そのときの今ヶ瀬の告白が、本当に何て言えばいいのかわからないぐらい心に響いて響いて泣きそうでした。人を好きになるって理屈じゃないんだよね。どんなにダメな男で欠点も嫌って程わかっているのに惹かれてどうしようもないことがあるんだよね。二人ともちっとも綺麗じゃなくて、恋ってのは時に人間の弱さ脆さがむき出しになる醜いものなんだなと。その醜さも含めてとてもとても愛しいものなんだという、原点に立ち返った気持ちでした。
クライマックスのタクシーでの会話とキスはもう言葉を失うぐらいの緊迫感と切実さですよ。こちらにまで空気が伝染して震えがくるぐらい。
恭一の衝動は確かに恋だったと思うの。でも同性愛者とノンケの壁は高くて、そこにはBLが介在することを許さない現実がある。「窮鼠」だけで終わっても良かったと思う。が、「まだ完結ではない」というところに希望を託して続編を読むのもありかもしれない。本当に一読の価値ありのすごい漫画です。

「恋のまんなか」(松本ミーコハウス)

koinomannaka.jpg
正直驚きました。予想外に良かった。というか、普通にとても良かった。
というのも、雑誌掲載時に1話だけ読んでいまして、その時はひたすら痛々しい話という印象しかなかったのです。線の細い少年たちが仔猫のようで、絵がら的にもアウトだったので「この著者は読むことはない」と思っていたのですよ。それが某ブログ様で絶賛されており、恐る恐る手に取ってみたのです。
癖のある絵柄も慣れれば全然気にならないし、むしろその線の細さが作品の雰囲気と見事にマッチして、何となくBLではなくて「JUNE」という言葉が思い浮かびました。庇護される立場にあるはずの子供二人による夏休みの逃避行。松本先生の好きなものを詰め込んだと後書にありましたが、そのアイテムを持ってきてこの雰囲気、感覚。私この人好きです。

「俺、あーゆーのいじめたくなるんだよねー」内気な優等生の司は、密かに同級生の千歳に想いを寄せていた。だが、ある日、その気持ちを無理やり告白させられてしまう。千歳のアパートに連れて行かれた司は言われるままに千歳と身体を重ね・・・どうしようもないほどのさみしさを抱えた少年たちの行く先は?


途中までは本当にイタイ話だと思って読んでいました。セフレとして扱われても幸いそうに微笑む司は、優等生という設定じゃなければどうしようもない子だと。でも、松本先生の独特な魅力は「こうなるのかな」という予想よりも少しだけ斜め上にい人物の性格にあるというか・・・。「やきもちやいたの?」と言ったところに司のふてぶてしさ(良い意味で)が見えるし、それを認めちゃう千歳の素直さが印象的でした。大体、父親に捨てられたら施設に行くと決めている千歳はなかなか強いと思うのです。二人が意外に現実を見据えていて、自分たちの行動が一体何を起こすのかお互いに考えていて。「JUNE」なら心中とかのバッドエンド一直線になりそうな話にきちんと救済を入れている。盲目的な司の想いは恋からくるもので、それを「怖いな」という千歳の気持ちもわかるけど、その想いを受け止めて告白に転じさせた千歳の素直さに読んでいる側としては安心しました。ちなみにイジメッコ×ドMなエッチシーンもとても良いです。千歳もちゃんと気持ちよさそうにしているのが嬉しい。二人とも子供なのが伝わってきて可愛いです。最後の屋上のモノローグといい、好きだわ。
そして書き下ろしがまた素敵なんだ。こういう書き下ろしは申し分ないですね。
絵柄とPNに尻込みせずに(私はしました(笑))是非とも読んでもらいたいです。

夏休みの逃避行ということで、小野塚カホリの『LOGOS』を思い出しました。バッドエンドはこのイメージだったのかもしれないな。本当に衝撃的なラストだったから。

12月に入ったら仕事も忙しくなるしあんま良い出会いがなさそうだー、と思っていた矢先に素敵な作品に出会えて幸せです。

「蹴りたい背中」(綿谷りさ)

唐突ですが純粋に一般書の感想です。
言わずと知れた芥川賞最年少受賞作にして127万部のベストセラー。
5年前も私は書店員でしたが、芥川賞受賞作が掲載された「文藝春秋」を普段ならまず手に取らない客層が面白いように買っていた光景を覚えています。
いつか読むんだろうなーと思いながら気がつけば5年(笑)。あまりに取りざたされた為、あらすじを繰り返し見聞きするうちに読む気力がなくなっていたんですね。「そーゆー話なんでしょ。知ってるよ」みたいな。が、そもそも芥川賞はストーリーを楽しむものではないからね。何で今まで読んでいなかったのか反省しました。
今更こんなこと言うのも恥ずかしいのですが、すごく面白かったです。私の敬愛する書評家方が口を揃えて「天才」と言っていたのがわかりました。19歳で、高校生が主人公の青春(?)小説で、ここまで抑制の利いた文章と、距離感を保って主人公たちを描けるなんて。その姿勢はひたすらクールでカッコよくすらあります。

クラスの余り者、というかハツの置かれている状況って「シカト」に限りなく近いと思う。高校生になると表立ってのイジメって激減する代わりに、気に入らない人とは関係しないという処世術を身に付けるよね。ハツは斜に構えて周りにいる人間すべてを下に見ているような子だけど、それは痛いほどの孤独から身を守るなけなしの防御なんだよね。そこにもう一人の余り者、にな川が現れるわけだけど、彼はハツが諦め切れない俗世への未練を完全に断ち切ったようなオタクで、ハツは自分と似ているようで違うにな川にどんどん興味を持っていくんだ。でもにな川の世界はモデルの「オリチャン」のみで構成されていて―。にな川はモデルの顔とロリヌードをコラージュした写真を宝物にしているような男なんだよ。高校生が主人公の仮にもヒロインが惚れる(と言っていいのかしら)相手としてこんな男見たことないよ。しかも見舞いに行ったハツの行動(キス?)をスルーするような男。その人物設定だけ見ても本当に面白い。そして有名な「愛しいよりも、いじめたいよりももっと乱暴な、この気持ち」ね。好きな人が傷つく姿が見たい、傷付けたい=「蹴りたい」という行動に繋がるわけだけど、それって身も蓋もない言い方をすれば性欲なんだよね。好きな子のことを苛めたいって、結局そういうことでしょう。キレイな恋愛ごとを一切無視して成立した、カッコ悪いのに最高にカッコイイ青春小説だと思います。

デビューから3作。他の2作も読んでみようっと。

「恋愛裁判の行方」阿仁谷ユイジ

aniya.jpg
阿仁谷さんの新刊です。
明るい話の方が好きだけど、『刺青の男』のインパクトにはやはり敵わないかな。
独特の絵柄がちょっと萌えから遠いのですが、ラブラブでアホエロと呼べるようなHシーンが好きなんです。攻めが受けと同じぐらい気持ちよさそうな顔をしているのが素敵。実はそういうの少ないんですよね。BLって受けへの快楽を重視する、というか一般的に攻め側(男側)の快楽ってアイテムとして無視されがちな気がします。AV鑑賞時についつい攻め側の喘ぎ声に耳ダンボな私としては、阿仁谷さんの男たちは二人とも気持ちよさそうで本当に可愛い。しかし同時にそこがBLとしての萌えを阿仁谷作品に感じない所以でもある気がしますな。複雑だわ。
どれも明るいラブラブ話なので安心して読めました。「いとしの執事さま」が一番好きです。

変な話になるのですが、BLと百合は同一線上にあるのでしょうか。私は百合漫画を好んでは読まないし女子高ノリとかは積極的に嫌いな方ですが世の中的には「ホモが好きならレズもすきだろ」って感じなんですかね。たまに「この状況で私が彼女を好きだったらBLだなー」と妄想することがあるんですよ。もちろん妄想するだけで実際に私が友人を恋愛対象として見ていることは断じてないのですが。と同時に思うのは、「女は身体を繋げることが出来ないなー」ということ。棒信仰ではないけど、実感として不足が生じるのはそこの点です。だから何って話でもないのですが、なんとなく男が羨ましくなる瞬間です。

「恋の話がしたい」

koinohanasi.jpg
I want to talk about you
とても普通の恋のお話。好きな人がいて、告白して、相手も自分を好きだといってくれて、さあそこからどうする?という誰もが知っているような普遍的な恋のお話。ゲイとノンケの戸惑いは一般的に見れば普通ではないのかもしれないけど、相手に受け入れてもらえる自信がなくて、どうしたらよいかわからないのにとにかく好きで好きで仕方がなくって、ああ「恋してるなー」って感覚は万国共通でしょう?
他愛ない会話から距離を縮めて、「すぐに終わるかもしれない」から「明日も」「明後日も」「来週も」「来月も」そして「来年のこの時期も」ってどんどん相手といる未来を求めたくなって。
ああ、私ヤマシタさんのウジウジした男が好きじゃない理由知ってる。すごく心当たりがあるんだもん、自分に(笑)ノンケの真川がゲイの美成を好きな理由がいまいちよくわからなかったけど、でも恋ってよくわからないものだしね。明るく前向きでちょっとバカな真川に美成は感化されて変わっていくといいな。「タッチ・ミー・アゲイン」以来の正統派な恋の話なのではないでしょうか。

さてさて、しかし私の心を鷲掴みにしたのは同時収録の「Re:hello」だったのです。認めよう。どうやら私はやっぱりヤマシタトモコにBLは求めていないらしい。女の子が主人公の作品ばっかり好きなんだもの。ゲイの叔父さんが昔使っていた携帯電話の未送信メールを盗み見てしまう女の子。そこには叔父が片思いの相手に宛てた送られることのないメールがあった―。この話には書き下ろしと後書で二段落ちが付くのですが(たぶん賛否両論)、それも含めてすごく好きなんです。毎日想うわけではない。でも、ふとした瞬間想い出してしまう夜があって、それでも伝える術などなくてただただ想いを携帯メールの画面に吐き出す。4年間で16通の未送信メール。お、思い当たるフシがある私は「キモイ」のだろうか・・・。しかもこの話にはきちんと「その後」を予感される結末がある。何かあるかもしれない。何もないかもしれない。でも宅配便や郵便が来るたびに「もしかして」と期待する叔父に、彼女は一筋の光のようなものを投げたのだと思う。
この短編はヤマシタ作品の中でも私的上位です。

もうひとつ「スパンク・スワンク!」も面白かった。ヤマシタさんのネームの魅力が全開。シリアスとコメディーと、本当に引出が多いなぁ。ガチのMとガチのゲイが出会って―という、マイノリティー同士なのに決して相容れることのない二人のお話。ゲイとMの人口比率なんてよくわからないけど、アナルセックスも乳首ピアスも「異端」だからといって重なるわけではないんだよね。そんなことわかっていたのに改めて漫画にされて読むとすごく納得した。ヤマシタさんのSMの話は既存の視点から一歩も二歩も飛び出ていて本当面白いと思う。

今月も新刊が読めるなんて嬉しい限りだ。
プロフィール

yori

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL.猫かぶってみても、結局たどりつくのはそこなのです。感想は基本的にすべてネタバレ注意です。拍手&コメントありがとうございます。拍手コメントは該当記事のコメ欄にてお返事いたします。リンクフリーですがご一報頂けると嬉しいです。

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