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「青年は愛を乞う」日野ガラス

青年は愛を乞う (drapコミックス243)青年は愛を乞う (drapコミックス243)
(2010/08/03)
日野ガラス

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有言実行ということで日野さんのデビューコミックです。
こちらも素晴らしかった。

「青年は愛を乞う」
冒頭、主人公である楓の回想から始まる表題作。
暑い夏の日に初めて化粧をした中学生の楓が、鏡の中の自分の醜悪さに絶望するという場面に強く引きこまれた。一瞬読むのをためらったぐらい。それには理由があって、実はつい先日この回想シーンのような小説が読みたいと某所で呟いたばかりだったのだ。自意識過剰だと笑ってやって下さい。でも、私は本当にこういう話が読みたかったの。
化粧をした楓は自覚するのだ。「女になりたい訳ではなかった 只男に愛されたかった」と。
その時から楓は自分がゲイであることをひたすらに隠し、女の子に優しい表向きの顔を保ち続けている。内心では、「俺の手の届かないものに易々と手を伸ばす」女の子たちを憎んですらいるのに。そんな彼が恋をするのは「親友」の奥田だ。普通の高校生である奥田は楓の気持ちや抱える葛藤には気が付かない。ただ、「綺麗」だと思っていたのだ。そうでなければ文化祭の女装コンテストに楓を推薦などしなかっただろうから。女装した自分の醜さを誰よりも知っている楓は激しく抵抗する。周囲の目からもわかることだが、楓はとても綺麗な青年なのだ。でも、楓の中での比較対象はあくまで「女の子」であって、男にしては綺麗な自分など醜悪でしかないのだ。女の子のように男に愛されたい楓は女の子にもてる。そのとき聞かされる告白の言葉ですら、自分が好きな人には決して伝えることの出来ないそれは楓にとって苦痛でしかないのだ。タイトルの通り、愛を乞う楓の姿が描かれる一話目だ。
二話目は奥田視点で楓を意識するようになる様子が描かれる。文化祭の後で初めて涙を見せた楓の抱える「何か」が気になっていく奥田。明るく正直に(ときに辛辣に)生きている奥田の持つほの暗い部分が伺えるのがいい。楓に渡してくれと頼まれた女の子からのラブレターを、暗い目をして炎にくべる奥田。届く前に失われてしまった想いのように、自分の想いも早くなくなればいいと願うのだ。三話目でこの話は終わるのだが、正直あと一話ずつ互いの視点を描いても良かったのではないかという気がしてしまった。展開が少々急だしわかりやすい(テンプレ)ように感じたから。その前の二話が大変好みだっただけに余計に残念に思ってしまった。それでもラストの締め方に「日野さんらしさ」のようなものを感じて嬉しくなった。ハッピーエンドの中にも少しの棘を残すモノローグが素敵だったから。

「彼方の恋」
カメラマンの吉崎はゲイビデオの撮影現場で高校時代の同級生萩野彼方と再会する。学校の「アイドル」だった萩野の変わりっぷりに驚愕した吉崎は、ワケアリだと勘違いをして撮影現場から萩野を連れて逃げだす。容姿端麗なだけではない。成績優秀、スポーツ万能、品行方正、すべてが揃った萩野は吉崎の目からも、他の生徒からも「完璧」なように映っていた。それゆえに「アイドル」だったのだ。逃げ込んだホテルで萩野は自身がゲイであることをあっけらかんと告白する。男に騙され、帰る家もないかつてのアイドルの姿に吉崎はショックを受けるが、萩野は「今の方が楽」だと本当に楽そうに話すのだ。その変化を、吉崎は初め見たくはなかった。完璧だったアイドルが悩み傷つく姿を認めたくはなかったから。萩野は完璧だった自分にさようならをすることで失ったものもあっただろう。それでも恐らくはゲイであることに怯えていた頃よりも生きるのが楽しいのだ。その悩みや葛藤を愛しいと思った吉崎は萩野の願いを叶えようと一線を越える。あらすじを説明すれば知っているような話、なのだがそれがとてもいいのだ。見えて(見せて)いなかった異なる部分を明かして受容する過程がとてもいい。他に云いようはないのかと考えているのだが、どうにもツボのようで言葉が出てこない(笑)
完璧をやめた萩野の面倒くさい性格が描かれる二話では、のほほんとしている吉崎に比べて、萩野は街中でカップルを見てはグルグル、女性を見ればグルグル、父親になった同級生に会えばグルグルと、ノンケの吉崎とゲイの自分のことを考えてしまう。優しい吉崎に満たされているからこそ、失ったときのことを想像すると「死ねる」とすら思ってしまう。吉崎に優しくして恐縮されれば、笑っている顔が見たいと落ち込む。それはたぶん、吉崎には完全には理解することの出来ない萩野の不安定さなのだ。でも、吉崎の中にはない悩みや葛藤はときに萩野を心配させ、そしてときに思いがけない幸福をもたらすのだ。とても幸福なラストシーンだ。二人で居るのに一人のカットで終わる、その描き方に感嘆のため息が出た。


日野作品に共通するのはおそらく「劣等感」だ。ガラス細工のように繊細で丁寧な顔形をした美しい男の子が、自身の性志向ゆえに不自由でままならない気持ちを抱えている。その様子に端的に云えば萌えてしまうのだが、その萌えはともすれば自分の開けたくないパンドラの箱に繋がっているようで、諸刃の刃だ。こういった作風の話は最近ではもしかしたら珍しいのではないだろうか。随分久しぶりに、自分の原点に戻ったかのような萌えを感じた。

全体的にベタ褒めしすぎの感がありますが、久々に出会った好き作家さんなのでご容赦を(笑)
良い本を読みました♪


***

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「フェティッシュ」日野ガラス

フェティッシュ (ビーボーイコミックス)フェティッシュ (ビーボーイコミックス)
(2011/01/08)
日野 ガラス

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教室の後ろの席から、ずっと見ていた。どうしても、お前のその髪に触れてみたい―!同級生の薫を密かに思い続けるツカサは、頭の中で何度も薫を犯すうちに、暗い欲望をエスカレートさせ…?狂おしい激情が爆発する表題作「フェティッシュ」を始め、貴方の心を必ず少し傷つける、ガラスのように危うく美しい読みきり集、描きおろし付!

初読み作家さん。
このところ満足のいく読書が出来ておらず(時間的にではなくて気分的に)モヤモヤしていたところ、こちらの本を店頭で見かけ「リブレか~」と思いつつ表紙買い。そうしたら大変私の好みでビックリしました。久しぶりにエロをガッツリ描いてあるBLを読んだということもあり、やたらドキドキしましたよ!大好きです。

「フェティッシュ」
表題作。裏表紙のあらすじを読んだ時は不穏な予感(好きが募って無理矢理―)がしたのだが、蓋を開けてみれば抑制された展開に意表を突かれ、感動すらしてしまった。主人公のツカサは、自分には無い美しい黒髪の持ち主である薫に恋をしている。親しい友人の顔をした裏で、それは手酷く薫を犯す妄想をする。妄想だけなら人は皆犯罪者、とは誰の言葉だったか、私はツカサの優しさなんて微塵もない妄想と欲望にとても…共感したのだ。「酷い妄想」を子細に描くことで、その切羽詰まった欲望が哀しいぐらい浮かび上がってくる。ツカサは健全な男子高校生ではないのだろうか?ヘンタイなのだろうか?そんなことは決してないんだよね。だってこれは妄想なのだから。この話の素晴らしいところは、そんなツカサが現実で薫に対して取った行動のささやかさによるのだ。妄想と現実。その中で生きる自分も薫もまったくの別物だと彼はちゃんと理解している。教室で恐る恐る抱きしめ合い、互いの髪を撫でる彼らの可愛いことといったらない。妄想と現実の乖離を描く話は多いけど、この話は現実の彼らがその後恋人になったかどうかすらわからない。私はこの二人がまとまるのは相当に先のような気がしている。そのくらい、現実のツカサは臆病な少年なのだ。「フェティッシュ」と名付けられているぐらいなので、キーは「髪」なのだが、二人のエピローグとプロローグで似たもの同士の様子が描かれていてにまにましてしまった。

「ワン・マイ・スター」
収録作中一番好き。幼馴染で元親友同士の二人の話。明るいとは言えない家庭環境に育った翔にとって、優しくて頼りがいのある慶志は「暗闇に唯一輝く星の様」だった。だがその関係は慶志に「ホモだ」という噂が立ち一変してしまった。いや、もしかしたら描かれないだけでそれ以前から彼らの関係は形を変えつつあったのかもしれない。翔の背が慶志を追い抜き、その骨組みを「頼りない」と翔が感じるようになった頃から。クラスメートの悪質な嫌がらせに翔は積極的にではないにせよ加担をしてしまう。翔の中ではいつしか慶志は欲望の対象になっていて、嫌がらせを受ける慶志を心配するのだが保身の為に何もすることは出来ない。そして、関係を揶揄された翔は「キモチワルイ」と最低の一言を発してしまう。そして、慶志が男に抱かれていた事実に混乱した翔は慶志に詰め寄るのだが、そこからの展開に息をするのも忘れるぐらい、入り込んでしまった。心臓がぎゅうっとなったよ。日野さんの魅力の一つは「言葉」にある。それを確認したのが足を舐めろと云われた翔の、「キラキラした恋なんてどっかに落ちてんのかなぁ」というモノローグだ。二人の間にあるのは「恋」のようなものなのに、それはあまりにも明るさからは遠い。昔、翔にとって「星の様」と感じたはずの慶志なのに。時折挟まれる幼い彼らの姿と相俟って壮絶に切ない。翔のことを酷い奴だと罵る慶志は、泣きながら「でも俺はホモだから ずっと一生お前に縛られ続けんだろうな…」と云う。その言葉に、昔慶志が翔に云った「ずっと一緒にいるよ」という言葉が重なるのだ。何気ない台詞の対比なのだけど、日野さんは上手い。月並みな表現だけど、言葉がキラキラしている。そしてラスト、このシチュエーションが個人的なツボ過ぎた為に一番好きなのです。私は「名前を呼ぶ」という行為に弱いんだよ…。短い話なのに素晴らしくまとまっていた。後書を読んで驚嘆したのだが、私はこの話はこれ以上ないぐらいのハッピーエンドだと思いますよ!大好き。

「とらわれびと」
箱の中での再会物。収録作中一番ファンタジックで安心して読めた話―と思ったけどそれは描き下ろしの「旅立ちの日」」を読んだから思うことなのだ。同じ児童養護施設で育った村瀬と優。村瀬はヤクザ稼業、優は性的虐待を加え続ける園長に対しての傷害による服役だった。初め村瀬は優を昔守りたかった「少女」だとは気が付かずに抱くのだが、優は村瀬の名前を知ったときから気が付いていた。それでも自分からは何も伝えずに、ただ嬉しそうに笑うのだ。村瀬は自分の生を自嘲している。早く終わらせればいいと思い続けている。そんな自分の姿勢が、再会した優の「希望」になっていなかったことを優の自殺未遂によって思い知った村瀬は生きる決心をするのだ。そして幼いころに果たせなかった約束を果たすのだ。オマケも含めてとても幸せな話。逃避行に暗さはつきものだと思っているが、彼らにはどうか明るく楽しく生きて欲しい。

「Beautiful Days」
著者の商業デビュー作。日野さんは頁数の短さを全然感じさせない人だな。本当に上手い。
「美しいものが好き」と断言するフリーデザイナーの真理と、サラリーマンの怜央は同棲中の恋人同士だ。生活時間帯も収入も不規則不安定な真理の身勝手さに辟易しながらも怜央は真理と離れることは出来ない。グダグダな恋人達の関係を描いただけともいえる話なのだが、なんとも魅力的なのだ。怜央は真理の甘えを許容している。そしてそのことを真理がズルイぐらいよくわかっている。女の話をした怜央(ちうか、云いだしたのは真理だ)を手酷く抱いた後でポツリと「お前キレーなのにね 俺意外の人間皆優しいだろ」と云うのだが、このダメっぷりになぜかキュンとなってしまった(笑)ちょっと共依存っぽくもあるのだが、甘々な二人の話でした。

「フォトグラフ」
美しいものが好きだと云う真理の「世界」の話。彼の世界の「美しいもの」が何かという話。そんなことはわかりきっているのだが、改めて示されるとこれ以上ない「武器」の強さにまいってしまうね。真理の才能が好きだと云う怜央に、その才能を結束させた「世界」を見せる真理。真理の世界の一番美しいものがずっと彼の傍にあるといい。



久々にガッツリBL漫画の感想を書いた気がします。楽しかった!
私はバレバレだと思いますが暗めの話が好きなので、明るくない人たちのどうしようもない感情に溢れた日野さんの作風はハマります。どこかで見たような関係性の話でも、必ずハッとするような言葉があっていい。どんな本を読んで生きてきたのか知りたくなったぐらいです。今後も要チェック。もう1冊出ているようなので早急に入手します。

良い本を読みました♪



***

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「誰にも言えない」シギサワカヤ

誰にも言えない誰にも言えない
(2010/11/30)
シギサワ カヤ

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久々の一般漫画感想。
シギサワ作品の区分は何だろう?レディコミ、耽美、エロ…そのどれもが当てはまるようで、斜め上にズレているような、不思議な作風の人だと思う。デビュー作からすべて読んでいるのだが、未だに自分がなぜシギサワ作品を読み続けるのかよくわからない。シギサワ作品の男女は割と簡単に身体を繋ぐ。身体から始まる関係もある。身体だけが繋ぐ関係もある。その関係性は私からは随分と遠く、理解だって及ばないのに、なぜか読みたくなってしまうのだ。
読むたびに驚くのは、こういった関係性を提示しようという強い意志を感じること。身勝手で情緒不安で強くて弱い女に振り回される男と、そんな男を愛してやまない彼女達。湿っぽくて下品すれすれでセックスが介在する関係。その遠さの正体が知りたくて読み続けているのかもしれないね。
ザラザラした読後感の後に何かを吐き出す気持ちになれない作品が多かったが、今作『誰にも言えない』は収録作すべて「好き」だと云える珍しい(失礼)作品集だったので感想を書いてみたくなったのだ。


「誰にも言えない」
いとこ同士の二人は幼いころに親戚達の目の届かない場所で、二人だけの陰美な秘密の遊びをしていた。大人の知らない子供だけの時間はその成長とともに終わりを迎える。窮屈な大人の集いの中で存在を無視され続けていた子供たちが、ある日、ふいに、大人達に見つかる。少年は酒をすすめられ、少女は給仕を任される。二人の道が分かれた瞬間の切なさや戸惑いが、大人達の笑い声の中でひしひしと伝わってくる。自分たちの行為の意味することに気が付いた二人は終わりを「選ぶ」のだ。それから十数年を経ても女は男としたことを忘れることが出来ない。互いに恋人が出来ても、心の奥に「何か」があり続ける。親戚だからと顔を合わせ、当たり障りのない会話を交わしながら、二人の間には逃れられない想いがある。男は結婚を決めていたが、女はそんな男をホテルに誘う。昔の遊びの続きをしようと。シギサワ作品の女たちは決して美人ではない。どちらかというと、流行りの服も着ず(たぶん、著者の興味関心外)飾り気のない眼鏡をし(たぶん、著者の趣味嗜好)、地味でぼんやりとしていて泥っぽいダサさがある。そんな女が性的な積極さを見せることのエロスというのかな。扇情的な描写ではないのに、匂いのようなものを感じてひたすらエロい。男の告げるわかりきった言葉で二人の人生は急転直下、強い意志でもって互いを「選ぶ」のだ。

「誰にも言わない」
ぼんやりしていると思っていた姉のくだした晴天の霹靂の一大決心により、人生の指標がだいぶずれることになってしまった妹の話。退屈な田舎を出て東京行きを漠然と夢見ていた少女は、姉が家を出ることによって家に縛られることになる。姉とは違い、竹を割ったような性格の彼女は明るい。合コンで知り合った彼氏を「なんでこんなヤツと」と思いながら、その真っ直ぐさに惹き込まれている自分を肯定したとき、彼女は姉の未来をとうに祝福し納得していることを自覚する。個人的にアホ彼氏がタイプでした、はい。姉妹の間にある辛辣さや愛情が素敵。

私の萌えポイントに昔から「地方都市の閉塞感」というのがあって、たぶんそれは自分が生まれ育った場所への愛憎のようなものと関係があるのだろうけど、何処にも行けずじりじりと息が詰まっていく感じが堪らないのだ。そういう状況を萌えとして消費していることへの罪悪感はあるのだけどね。表題作で描かれるソレは私のそんな欲求を満たしてくれました。

「エンディング」
女同士の恋愛の始まりから終わりの話。
私は百合物を嗜まないので、この話が「百合的」なのかよくわからない。でも、上司と年上部下、女二人の関係は妙にリアルだった。来るもの拒まずの上司は告白を受けて部下と付き合う。初めての同性の恋人は、女同士だからこそわかる狡さや可愛さをもったちょっと面倒くさい人だった。しっかり者の上司の口癖は「大丈夫」だ。二人の職業はSEなのだが、マネージャーの立場にある上司は部下の仕事の進捗具合を不安に思いフォローを入れる。その際に部下は「大丈夫です」と云うのだが、笑いながら上司はこう云うのだ。「あなたの大丈夫はわたしの次に信用できない」と。なんてことない仕事の会話なのだが、このやり取りのリアルさといったらない。部下の周囲の空気を読むことの出来ない浮き具合や、それを笑って流しながら不満や不安をためていく上司。誰にも言えない後ろめたい恋愛は互いの気持ちだけが頼りで心もとないものだ。同性だからこそ浮きあがる立場や給与の差によるコンプレックス。二人の関係にはシビアな金銭事情が背後にあるような気がして仕方なかった。「自分よりも稼いでいるのだからマンションを買えばいい」と云った部下の言葉は喧嘩の売り言葉に買い言葉だが、その悪意のようなものは胸に刺さる。
誰も「大丈夫」なんかじゃなかったのだ。同性同士の重圧に知らず押しつぶされていたのは二人とも同じで、その綻びは部下の両親が上司に会いに来たことで決定的になる。娘の恋人の正体に気付いている両親の不安げな様子に上司は「終わり」を決意する。二人には覚悟が足りなかった。同性と添うということは、常より覚悟が必要なことなのに。ラスト、葉書を送ってくるところにシギサワさんの女性キャラの「タチの悪さ」のようなものが凝縮していると思うな。それでもそこにあった感情は確かに「恋」だったのだ。面白かったです。



***

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「愛はね、」樋口美沙緒

愛はね、 (白泉社花丸文庫)愛はね、 (白泉社花丸文庫)
(2010/12/17)
樋口 美沙緒

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予備校生の望は、幼なじみの俊一に片想いをしている。けれど、ノンケの俊一は決して自分を好きにならないと知っている望は、その想いを胸の奥に閉じ込めるしかなかった。他の誰かを好きになろうと、駄目な男と付き合っては泣かされる日々を繰り返す望。一方、そんな望にうんざりしながらも放ってはおけない俊一は、いつも望の世話を焼いてきた。しかし、そんなふたりの関係が変わるときがやってくる。俊一の知人・篠原が、望と付き合いたいと言ってきたのだ。それを後押しする俊一に、抗えず従う望だが…。

初読み作家さん。
読み始めてからしばらくは登場人物の行動に苛々して何度も頭の中でちゃぶ台をひっくり返していたのですが、とても面白かったです。後書を読んで主人公が読者に一度「嫌われる」どころか、この話自体が一度「嫌われる」可能性を孕んでいたのだなと確認しました。それでも読後は読み始めが嘘のように爽快だったので、まんまと作者の手のひらの上だったわけで。

傍から見れば相思相愛の幼馴染二人は、これでもかと他人を傷付ける。恋愛における傷は誰に責任があるわけでもないし、そこで起きるどんなに残酷な結果もすべては喧嘩両成敗のように思っているのだが、やはり望の行動には賛成できない。好きでもない相手と「好きになるかもしれない」という希望的観測で付き合っては失敗を繰り返す望。彼は暴力は受ける方にも責任がある、なんて日頃の私が死んでも認めないようなことをちらっと思ってしまうような傷を恋人達に与え続ける。素直な、というかバカ正直な望は自分の気持ちが俊一にあることを隠すことが出来ない。男達はその度に激高して望を痛めつける。とても愚かな恋愛を繰り返す望を、「友達として」受け入れて、時々にはキスまでする俊一だって最初は理解不能だ。誰にも触らせたくないかのように望を庇護するその姿は、望の元彼が指摘するまでもなく「独占欲」なのに。

望は自分が寂しいから寂しい人を放っておけないのだと知っている。酷いことをされても云われても許してしまうのは、「強い」からではなくて、何も求めていない(期待していない)からなのではないかな。只ひたすら俊一の愛だけを欲しがる望にとって、その他大勢の男達の愛や優しさはあってもなくても大差ないものだったのだろう。
すべてを許しているようで、でも付けられた傷を決して忘れてはいない望の感情が爆発する場面がとても良かった。自分だけを安全地帯に置いて、ゲイ/ノンケと予め線引きして優しくする俊一の残酷さを初めて望が責めるのだ。どちらも若くて愚かで、相手が好きで好きで仕方ないけど自分の身も可愛くて、というエゴが上手に描かれていて感心してしまった。欲しいものを与えることが出来ないのなら離れた方がいいというのをわかっていながら、好きだから離れたくない。曖昧な関係でも、時に傷ついても、相手が好きだから。そのなりふり構わない愛情が私には眩しくて羨ましくもあったな。

望に転機を与えるのは俊一ではなくて、実の兄だ。誰からも愛されていないと嘆く望の根っこにあるのは家族との誤解とすれ違いで、その頑なな気持ちを氷解させるのもまた家族なのだ。家族の愛を知ることで、望は自分を愛する一歩と、俊一の愛の形に気が付く切っ掛けになっている。二人の未来は始まる手間で幕を閉じるのだが、とても優しい物語だ。「愛はね、」に続く言葉は何だったのだろう。小さな子供に母親がそっと教えてあげるような優しい言葉。自分のことしか見えていなかった望の世界は愛を知って姿を変える。気づかず側にあった愛への、それが答えなのかもしれないね。

樋口さんは人気の新人作家さんのようだが、たぶん、この「愛はね、」ではデビューは難しかったと思う。なぜならBLセオリーからギリギリ外れているから。でも、私はこの作品を読んでこんな(恋愛)関係未満の話をもっと読んでみたくなったよ。作中でも云われているように、この世に存在する愛情のすべてが「恋愛」と結びつくわけではもちろんないし、俊一のようなグレーゾーンに属する気持ちを抱えて右往左往する人間は多いと思うんだ。歩み寄る過程を丁寧に描いた今作は、主人公の心の成長に重きを置くことで、相手である俊一の気持ちは軽い置いてきぼりをくらった印象。でもそのすべてが、人が人を好きになることで生じる心の葛藤であるのだから、恋愛小説で描く価値は十分にあると思う(オマケでいいからラブラブな姿が見たいなぁと思ったことも事実ですが)。俊一が主役の続編を書く予定があるとのこと。楽しみに待ちたいと思います♪

良い本を読みました!


プロフィール

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL.猫かぶってみても、結局たどりつくのはそこなのです。感想は基本的にすべてネタバレ注意です。拍手&コメントありがとうございます。拍手コメントは該当記事のコメ欄にてお返事いたします。リンクフリーですがご一報頂けると嬉しいです。

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