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「37℃」(杉原理生)

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「悪いんだけど、俺をしばらく泊まらせてくれないか」 銀行に勤める野田に突然掛かってきた数年ぶりの電話。それは、大学時代の野田の秘密を共有する男、若杉からだった。泊めることを了承してしまえば、面倒なことになる… そうわかっていながら、野田は頷かずにはいられなかった。とっくに終わったはずの関係だ…… それなのに…? 静かな熱病のような恋が始まる──

1年前に読んだ時はどうにも野田のことが好きになれず辛い感想を書いていたのですが、頭の隅にいつまでも引っ掛かっている話だったので再読してみました。そしたら・・・とても面白かったので書きなおしました。前に読んだときは「キレイな恋愛物」が読みたい気分だったのかしら。う~ん、杉原作品は再読して好きになるケースが多いな。

人を好きになるということは、もちろん美しいだけではなくて、無償の愛情なんて存在する方が稀有で、相手よりも自分の方が可愛いくて、打算や逃げや駆け引きや、そういうずるくて汚くてしょーもないことを繰り返して、でもやっぱり相手が欲しいという気持ちの上に成り立っているという、ドロドロな面があるものなのですよね。
なんというか、これは正真正銘「恋愛」の話。
37℃の微熱を抱えたいい大人の男達が恋愛に右往左往して、お互いはおろか他人をも傷つけてしまう話。
恋愛は時に周囲の人間を巻き込んでなぎ倒して進む戦争のようなものなのですよね。その定義でいえば野田の妻も、若杉の元恋人も、決して一方的な被害者ではなくて、いうなれば「敗者」ということなのだ。

前は野田が妻にしたこと(ゲイでありながら結婚した後セックスレスになり離婚)に対して怒りがあったのだけど、再読して思ったのは、恋愛(結婚も)ってのは究極的には「二人の問題」であって、どちらか一方にだけ「非」があるケースなんてそうないのではないかということ。もちろん彼らの問題は表面的には野田に全面的に非かあるように受け取れるし、実際その通りなのだと思う。でも、野田と妻が上手くいかなくなった要因を語るのは野田な上、彼自身の語りを信頼するには、あまりに不安定さや揺らぎを抱えている人物でもある。「自分だけが悪い」という口上は、マゾヒストの彼にとっては「逃げ」であると同時に「快感」でもあったのだろう。野田の徹底した精神的マゾヒストぶりが空恐ろしかった。特定の人間の時間を「食い潰す」行為が恋愛(結婚)であったとして、その食い潰された時間の責任の所存をどちらか一方にあると部外者が決めつけるのは危険だし、何よりも相手にばかり責任を求めるのは、違うような気もする。(ま、現実はそんな綺麗事云ってられる世界じゃないよな。責任追及=お金だもの)
何が云いたいのかというと、再読したら野田のことを結構好きになってしまったよということです(笑)

敬虔なクリスチャンだった親の期待に答えられないことで、野田の心には深い穴が空いていく。精神的にも肉体的にも責められると安心するという歪んだマゾヒズムが形成され、ゲイであることを肯定も否定も出来ず、ただ、人並みの出世欲や地位の確立を人生の目標として(銀行員という職業の堅さがじわじわと効いてくる。ありがちだけど、とても良い設定だと思う)でも、何をしていても満たされることはなく枯れ切っている。そう、彼はとんでもなく虚しい人間だ。でも、野田の抱える問題は「誰も気付かない類の不幸」であって、そこに執着する若杉だって十分厄介な「寂しがり屋の恋愛依存症男」。若杉が持つ湿っぽすぎる感情をぶつける相手として渇き切った野田を選ばずにはいられなかったように、野田も若杉にしか反応しない心と身体を持っている。
結局、割れ鍋に綴じ蓋的な似合いの二人なのだと思った。

この話の面白いところは、彼らの恋愛の成就と罪を同じ重さで描いているところにあると思う。最終的に野田の妻は「敗者」ではなく「犠牲者」になってしまった。彼らの贖いの行方は―?というところで話は幕を閉じる。
徹底して甘くない、苦い苦い恋の話でした。堪能しました。




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