「惑溺趣味」明治カナ子

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「ぼくの愛人にならないか」 ある日、資産家の続木に愛人としてスカウトされた苦学生の荻。身体を重ねる度に「好き」の気持ちが溢れ出そうになる荻だが、疎まれるのが怖くて、続木に想いを伝えられずにいた・・・。

待望の1冊、やっぱり明治作品は別格に好きです。信者といっても過言ではないわ。
この表紙がまたおじさんの不気味さと青年の遠慮がちな視線が二人の関係をよく物語っていて素晴らしい。ちょっとマグリットみたいな不思議な雰囲気があって好きです。

ご本人も仰る通り「おじさん趣味」全開の1冊でした。『甘い針』から2作目の短編集ですが、ひとつ除いて後はすべておじさんが相手(主役)。明治さんのおじさんというのは、第一に「気持ちが悪い」のです。全然かっこよくもなければ素敵でもない。包容力と資産は多少あるものの、精力的には自信がない。枯れても脂が乗ってもいない、なんとも「おじさん」なおじさんなのです。こうした作品を私が楽しめるのは、やはり明治作品の魅力を「キャラクター」ではなく「物語性(関係性)」に感じている為だと思います。何度も書いている気がするけれど、これだけ好きな気持ちが大きい明治作品ですが、登場人物のキャラクターに萌えたことは少ないですからね。おじさんと青年の図が「老人と少女」や「青年と猫」のように、どこか前提として完全には相通じることのない二者を描いているようだと強く感じました。明治さんは「おじさん」が好きなのと同時に、「おじさん」に翻弄される青年(少年)がとても好きなんだろうなー。どこまでも青年達にとっては得体が知れない「おじさん」ですが、読み手にとっても結構ぎりぎりの感情でしか伝わってこないのが面白いというか・・・パワーバランスの転換が起こらない、「おじさん」の気持ちは藪の中風な作りが好きです。溺れるだけ溺れて立ち位置が見えない青年の状況と「惑溺」という言葉がぴったりで、これまた素敵なんだ。


以下、各題の感想です。
他作品のタイトルとか出てきて不親切極まりない感じですが、よければどぞ。



「惑溺趣味」「詮索趣味」
二人の関係は『甘い針』の「綾」と似ていますね。お金で囲われた青年が身体の関係を続けるうちに身体だけではなく心も欲するようになるという。若いというだけでパワーゲームの勝者に立ちそうな青年側ですが、明治さんのおじ様達は一筋縄ではいかない。秘めた気持ちはそのままで、青年を翻弄し続ける。秘めた努力とともに(笑)表題作の続木さんは本作中断トツで「気持ちが悪い」おじ様でございます。二人のいたしている場面を眺めつつ明治漫画は「成人漫画」という区切りが一番しっくりくるなーと思ったのはここだけの話です。

「ニグマの襟足」
学生時代に酔った勢いで一度だけ関係を持ってしまった二人の再会話。一番王道的な話です。押し倒した側(仁熊)に、朝になって謝られ激怒した竹中は乞われるままに仁熊を殴り倒してそれっきりにしてしまったという。短い話でどちらからも決定的な「言葉」なんて一切ないんですよ。でも仁熊が竹中を好きだったことも、再会した飲み屋での視線の端々から竹中が仁熊を憎からず思っていることもきちんと伝わってくる。「襟足」に執着する竹中の最後の台詞なんて本当に可愛いですからね!『三村家』収録の「雨に酔う」でも強く思いましたが、言葉に出さずに「この二人には何かがあるんだな」という空気を作り出すのが明治さんは異様に上手だと思います。こんな風に「余白」のある漫画は私の好みです。あっ、これが唯一のおじ様が出てこない話でございます。

「こんこん」
雑誌で読んだことがあったのですが、改めてとても面白かった。大学教授が研究生の学生に片恋慕をしているのですが、どうしても関係を持ちたくて若い男の子と身体を交換して彼の前に現れるという。「入れ替わりのツボ」なるものが発見された世界というファンタジーです。これが良かった!教授の純情と学生の意地悪な甘さが素敵でした。彼好みの若者になれば愛してもらえるのではないかという教授の期待は一度裏切られるんですね。身体だけ繋いだとしても、それは自分が欲しがっていた愛情ではないと教授は気が付いてしまう。身体が交換できる期間は二週間なのですが、教授は一度彼と寝た後は、若い身体で遊びに行こうともせずに自宅に帰ってふて寝(?)をしているんですよ。それが可愛くて。短編としてのオチも一番効いていて上手いです。オマケ漫画がまさかの展開で笑いました。

「ベス」
これは雑誌掲載時に前篇だけ読み、珍しく「微妙だ・・・」と思った作品です。でも今回後篇まで読んだらやっぱり面白かったよ。「えっ?、えっ?」という展開がありオカルト方面に慣れていない私は最初すごく戸惑ってしまったけど、じわじわと味が出てきました。「犬」として資産家社長の元に送り込まれた青年。社長は長年連れ添った「ベス」という犬が他界したことによって失意の底にあり、その隙に親族が会社を乗っ取ろうと画策をしていたのです。青年は社長の気持ちを彼岸に留めておくために親族連中によって雇われたのですね。前篇だけ読むと青年が社長に心惹かれていく様子が唐突で私の気持ちが追いつかなかったのですが、後篇まで読んでとても納得しました。「まさか、そうくるとは・・・」という静かな驚きが後を引いています。怖くて優しい話ですね。劇団や男に貢がずにはいられなかった青年の性格設定が、結末を受けて伏線だったことに気が付くというか。淋しい人だった青年の「心」の在処は・・・などと考え出すと色々な見方がありそうです。

「光る道」
これも雑誌で読んでいました。ある種の王道ですね。身体を売って生計を立てていた少年と、そのことに気がついてしまう友達の話。子供の力ではどうしようもない現実を突き付けられて、泣くことも出来ずにただ少年を怖がってしまった友達が大人になって彼を回想するのですが、何より怖いのは大人達が売春の事実に気が付きながらも何もしなかったことですね。すごく切ない中にも「光る道」というモチーフが美しくて文学的な一作です。おじさんはどこって?少年を買うのがおじさんでございますよ・・・。
少年一家はいなくなってしまうのですが、おじさんに身請けされたかもしれない少年のその後は確かに気になります。後書に「おっさんを憎んだり愛したりするのでしょうか」とあり妄想が広がりました。


短編集の感想は難しいですね!ダラッとなってしまいます。
でもでも明治漫画は短編にあり!と思っているファンとしては心の底から堪能した一冊でした。
幸せな読書でございました。







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読みました!

おじさん特集でしたね~。
今回ネットで購入したのは「惑溺趣味」と「娚の一生」と「かぶく者」ですが、どれもおじさまたち大活躍の話しで、笑ってしまいました。
明治さんの漫画は、今まで読んだどの話しも、キャラクター的には共感できないです。ちょっとコワい。でも面白いと感じてしまうのはそのストーリーのすごさなのでしょうね~。
「惑溺趣味」は好きですよ。最後のオチに救われる。おじさんだって努力しているんだ、ってところが。
あとベス憑き青年の話しも好きです。おとぎ話のようで。(怪奇話しか?)
相変わらず唐突に3等身になっちゃうところとかも、いいですね~。
そのセンスの良さ、尊敬しちゃいます。

でも、それぞれの話しに感想書いちゃうyoriさん、一番尊敬してます!

こんばんは

先日は先走ったメールを失礼しました~。
落ち着いて考えれば「合田3部作」は「LJ」で完結に決まってるし、「リア王シリーズ」にも合田が出てくるのを教えてくれたのはcochiさんじゃないですか!お恥ずかしいです。

明治さんのおじ様はもう全然BLじゃないですよね(笑)
「惑溺趣味」の表紙がとにかく好きなのですが、半分ホラーだと思いますよ。そうそう、共感や感情移入ではないんですよね。すごく客観的に読んでいるのに面白い!カバー裏も面白かったです!

私はまだ「おじ様萌え」というところまでは来ていないのですが、西さんの「海江田」には心惹かれています。今月号の「フラワー」が魅力全開な展開でして・・・もし良ければ覗いてみてください!

あっ、お知らせをと思っていたのですが今月末に「是」の新刊が出ますよ!楽しみ~

カバー裏!!

忘れてました、そこのチェック!
さっそく押し入れから出して確認!
か、かわいい~です、ふふふ~。

ようやく「是」8巻が出るんですね~。
ほんと、楽しみですね~。
やっぱ琴葉と近衛のCPが一番萌えます。
あのピュアな(?)琴葉の純潔をどうやって奪うのか……。
(いや、違うでしょ、どうやって本家の魔の手から守るかでしょ)
興味津々でございます!

そうそう

あの世話焼き苦労性兄貴がどうやって子獣の手に堕ちるのか・・・(笑)興味津々です!

本誌の立ち読みもしていたのですが、なにせ濡場が多かったのでパラパラとしか見れなかったのですよ。だからとっても楽しみ~

私も琴葉達が一番好きかもしれません。でもって次が何気に守夜達男前CPかも。愛は少ないけどもっと続きが読みたい二人です。でもでも一番お話にキュンときたのは氷見達なんですよねー。一番が選べない~(笑)!
どのCPも違う面白さがあって、本当上手だと思います。

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Author:yori
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