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「YES IT’S ME」ヤマシタトモコ

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「好きです、この世の何よりも----自分を。」容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能で対人関係も良好。おれの人生なんの問題もない…はずなのに!幼なじみの江城(通称キノコ)が放った言葉がおれの心を惑わせる!?20数年来のくされ縁から、一緒にお★★に入るまで。ヤマシタトモコが描く笑撃の短編集☆

発売日をノーチェックだった為休日に書店で山積みになっているのを見て軽く驚きました(ダメ書店員)。週1で新刊発売って凄いですね。東京漫画社ということで、掲載時に感動した「夢は夜ひらく」も収録されていました。それ以外の短編も「さすが!」といった感じだけど、こうも立て続けに「レディコミ」「ニアBL」「BL」と読んでしまうと、その「適材適所」的な上手さが食傷気味になってしまうというか・・・この本はもうちょい間をあけて読みたかったなぁなんて勝手なことを思ってしまいます。

以下心に残った作品を。

「瞼の裏にて恋は踊りき」
舞台は美大、自分に熱烈な想いを寄せている天才君を疎ましく思いながらも惹かれている秀才君の話。この二人の関係に妙にドキドキして、しかもその感覚に覚えがあるのは何でだろうと考えていたら、仕事中に判明しました。馬原のキラキラバカっぷりが某野球漫画の天才4番を彷彿とさせるからなのでした。そうなると沼上が途端にグルグル思考の秀才5番に当てはまり、やっぱりこの構図(ただし某野球漫画は天才×秀才)は私的萌えだなと確認したのでした。劣等感に苛まれる秀才君のせめてものプライドが「童貞じゃないこと」という底の浅さが好き。そして天才的な感性の前では非童貞であることのプライドなんて風前の灯であることに沼上が気付いているみっともなさが好きだ。おまけ漫画が笑えました。

「彼女は行方不明」
家出したというクラスメートの女子を探すことにした男子2人。芦立というその女子には「レイプされた」という噂があり不登校だった。古林は芦立が好きで、八名木は密かに古林が好きだった。
ヤマシタさんの短編の中でも私的上位の「イタさ」があると思うこの話。人の気持ちを考えるよりも何よりも先に、下半身の欲求が突きぬけているという若さ故の愚かさ。芦立のことを本当に好きだと思っていた古林が、「レイプ」という尾ひれが付いた噂に欲情していたという愚かさと、彼女と対峙した瞬間にその事に自分で気が付いてしまうという(たぶん)中途半端な賢さ故の残酷さ。そして彼女の死を願った八名木が吐いた取り返しの付かない暴言の救いようのない愚かさ。この話の主人公は誰だろうと考えたとき、理不尽な噂と暴力に「死ぬなんてムイミだ バカじゃない?」と叫んだ彼女こそが主人公だったのだろうと思った。女子よ強く生きろ、というメッセージを勝手に感じた。「三角関係」がお題のアンソロにこの話をぶつけるって、すごい。

「YES IT’S ME」「YES IT’S YOU」
表題作は単純に面白かった。サドマゾを描かせたらヤマシタさんは素晴らしいと思うけど、「ナルシスト」を描かせても面白いとは!一見して普通(よりもイケている)な男が性癖故に残念な方向にまっすぐ、というノリが大好きです。それがBL的萌えに繋がるかといえば今作も否なのだけど、切っても切れない強固な縁というか運命で繋がっていそうな2人が本当に面白かった。「素敵」ではなくて、とにかく「面白い」ところがこの話の魅力だと思う。

「minun musiikki」は妻帯者のチェリストと彼に想いを寄せるピアニストの話。ラブラブです。恋や愛のアレコレがバッドエンドなんて名乗れない的な後書に心底共感。「Loathe!」はSMごっこ気味の2人の話。ラブラブです(他に云いようはないのか)。この関係性はツボでもあるのだけど、ヤマシタさんじゃなくても描けそうな気がしたかな。背の低い方が攻めとのことだったけど、今更ながら作者と根本的に受け攻めの萌えが違うのでは?と気が付く。この2人ならば私は断然、股間を踏みつけている子が受けであって欲しかった。ツンデレとは違うけど、イジメッ子が受けていることに萌えを感じるので。そういえばホモ友と腐女子のバイトちゃんは好みが似ていて、2人ともツンデレに対して一言、「めんどくさい」だそうです。バイトちゃんと商業BL話をすると、タイトル、著者名、設定、舞台、全てが噛み合わず「相変わらずスカッスカッだね」と会話の非キャッチボールぶりが笑えます。

と、ここまでは前置きのようなもの。珍しくあらすじ込みの感想です。ネタバレしますので未読の方はご注意下さいと言いたいですが、ネタバレしても何ら話が持つ魅力には関係ない気もします。


「夢は夜ひらく」
ヤマシタ漫画の男達はネガティブで卑屈で劣等感を持っていることが多い。「ネガティブ」は私にとって大変慣れ親しんだ感情なので、彼らのグルグルというのは「当然」のことであり、ヤマシタさんが何でしつこくその感情を描くのか深く考えたことはなかった。「夢は夜ひらく」を読んで思ったのは、皆大なり小なり人生に何らかの「生き辛さ」を抱えながら、それでも折り合いを付け、生きているのだということ。それは当然過ぎてわざわざ確認することでもないのだけど、改めて突き付けられると、登場人物達がその問題に言及する姿に胸を打たれる。そして、そういったことを表現したいのだろうなと今更ながら思いましたよ。

男であること、女であること―その「らしさ」を上手に生きられない人たちの話。
美容部員の刀根(男)は女の子になりたかった人で、男の恋人がいる。彼は自分の顔に化粧がまったく似合わないことに気が付いてしまった時から化粧をやめて女性に化粧をする仕事を選ぶ。ある日刀根の仕事場に偶然元恋人の男が妻を連れてやってくる。男は刀根に「オカマみたいな仕事だな」と言い放ち、妻に化粧品をと言いながら「顔を触るのなら女の店員にやらせろ」と言う。その一連のやり取りはとても短いのだけど、男の妻がぼそっと「すみません」と刀根に謝るのが秀逸。きっとこの男は「女だから~、女のくせに~」という思考回路の元、知らずに色々な地雷を踏みまくっている人なのだろうとわかる。「L,H,L.」でも高圧的な男の物言いに辟易する主人公が描かれていたけれど、その「納得のいかなさ」や「違和感」を上手に表現していてすごい。男はその後も「男となんて付き合っていないで真面目に結婚をしろ」的な発言をして刀根を黙らせる。それは自分の嗜好がノーマルであり且つ男性であることに裏打ちされた傲慢さだ。でもこの傲慢さは、驚くぐらい世間にごろごろと溢れていることでもあるんだよね。「普通」を疑いもせずに他人に平気で押し付ける鈍感さ。悪意がない分余計に傷付くことがあるというのを、こういう人は知らないのだろうな。刀根の恋人の和君は化粧が似合う美男子。刀根はストレス解消に和君に化粧を施して遊ぶこともある。彼らの関係は一見すると大変良好で非の打ち所のない恋人同士に思える。でも、男の姿の刀根を愛する和君は、化粧に愛着(執着)を見せる刀根に「きみが女になったらおれはきみを恋人にできないから困るな」と洩らす。戯言のような台詞だけど、それは裏を返せば、恋人である和君に晒している「男」の姿の自分が刀根にとっては心の底からの幸福な形ではないということ。化粧が似合わない自分と化粧が似合う恋人と。幸せな光景の後ろには屈折した彼らの感情が見え隠れする。
同僚の三崎さん(女)は高身長でハスキーボイスな出で立ちのクール系美人だが、その外見にコンプレックスを抱いていて「女をうまく生きられなくて男の人になりたかった」と刀根に洩らす。刀根から見れば三崎さんはきっと「問題のない美人」であり、美容部員の女性に私が抱くイメージだって「化粧が好きな美人」という短絡的なものなのだ。女の役割を上手に出来ないという三崎さんの葛藤は私にも覚えがあるもので、「出来ない」というよりも「決められているソレに納得がいかない」と言った方が近いと思う。でもそんなことを言っても悩んでもどうしようもなくて、でもたまに言わずにはおれんから妥協したり爆発したりするのだと思う。納得いかないことがすべて丸く収まったとしても歪みというのはどこかに生じるもので、そう、本当にジェンダーとかややこしい問題ですよね(後書)。
一見淡々とした日常話だけど冒頭の部分から話は怒涛のうねりを見せる(矛盾してるけど)。二人はたまたま訪れた飯屋でたまたま同席した女性二人連れの会話に耳を奪われるのだ。隣の席ではひとりが相手に「あたし、本当は元々男なの」と告白をしていた。告白された方の反応から推測するに、恐らく彼女は「まだするべきではない人に、するべきではなかったタイミングで」告白をしてしまったのだが、その場の居た堪れなさに席を立った彼女を三崎さんは追いかけるのだ。そして通販中心に化粧品を購入していた彼女のために化粧品のカウンセリングを進める。この場面の刀根の固まった表情がいい。一瞬のうちに彼はどれだけのことを考えただろう。そして再読して気が付いたのだけど、この時点では三崎さんは刀根の事情についてまったく知らないのだ。目の前にいる「女になりたかった同僚」のことは一切関係がなく、三崎さんは彼女に声をかけたのだ。知っていたらどう違うのかというわけではないのだけど、一読した時はなんとなく「知っている」気がしたので驚いたのです。刀根が三崎さんに「強いですね」という場面があるのだけど、確かになんて美しく強い人かと思ったよ。そして同時に「性的なゆらぎ」を抱えている人に三崎さんだからこそ敏感に反応したのだろうなとも思った。
その後彼女は刀根に化粧を施されるのだが、この場面でようやく刀根は「女になりたかった」と告白をするのですね。そう、彼女は和君同様化粧が「似合う」女性だったのです。「きれいです」と刀根に言われて泣きそうになる彼女の表情といい、もう本当にすごい。その場に居る全員の葛藤が胸に迫ってきて泣きそうになった。
終盤で三崎さんが語る「そのまんまの君でいいよ」と言ってくれる人がいい、というモノローグに和君の姿が浮かぶのだけど、女らしくなくても、男らしくなくても、キレイじゃなくても、「そのまんまの君でいいよ」と言ってくれる人がすぐ側にいるのだという幸いに、刀根がうっすらと気が付いた瞬間なのだと思う。とても素敵なラストです。素敵なのに笑えるという素晴らしいラスト。

一見して発露していなくても、私たちは問題や生き辛さを抱えている。不幸の形は似ているけれど、幸福の形は多種多様であるという言葉を思い出しました。すべては思い通りにいかないし、理想は現実の前では妄想に近い形になってしまうけど(私のことだ)、妥協は諦めではなくて生き辛さを改善する手段の一つだし、そういった持ち物を抱えつつ誰かにちょっと預けつつ生きていけたらそれは素敵なことだよねと思いました。

ダラダラ長くなってしまいましたが、とにかく素晴らしい話でした。読めて良かった。



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ヤマシタトモコさん「Love, Hate Love」読んできました~!

yori様こんにちは!ぺこです。ご無沙汰しています。
yori様お薦めの作家さん、ということでヤマシタトモコさんのご本「Love, Hate Love」を拝読しまして(笑)、感動のままこちらにお伺いしました!ぜひお話させてください。

yori様がおっしゃってたヤマシタさんの作品についての感想
>感性に澱みがない
まったくその通りでした。感情と感覚の切り取り方がすごかった!

この方の見ている世界観がとても好きです。物事を善悪でなく「スキ キライ」で捉える感覚とでもいうか。
ヤマシタさんは、周囲の視線に翻弄される心のあり方を描いて、一方的な価値観で人をこうあるべきだと決め付ける人の傲慢さを「キライ」としながらも、そういう人間もいることを決して否定していない。ただ、生き方が違うだけ、と相容れないながらも許容する表現があって、…うまく言えないんですが、ありのままの心と心が触れ合う瞬間を描いているところに、とても心に響くところがありました。それに、頭でなく本能的な熱さですべてを感受している女性的な感性にも、とても共鳴するものがあったところです。

貴和子さんは、迷いながらも一生懸命自分と向き合っている人で、とてもかわいい人でした。立ち振る舞いもとてもキレイで、女性として憧れてしまうところがあります(笑)
枯れた縫原さんは確かに2次元では魅力的だが…という人かもですが(笑)、彼も2回りも年上だからこそ人の生き方を簡単に否定しない穏やかなスマートさがある大人の男の一面が表現されていて素敵な描き方だなと思いました。恋に不器用なところも、寛容なだけじゃなくて人間味があってかわいいな人だな、とも思っちゃいますし。(でも、「現実に若い女とつき合う男は精神的に未熟な男」という三浦しをんさんとの対談には確かに頷けましたが(笑))

あと、ヤマシタさんは言葉の感覚が素敵ですね。
「…世の中はイイとかワルイとかゼンとかアクとかじゃなくて スキとキライだけでできているっていう 何よりあなたをスキか 何よりあなたをスキじゃないか」
「…あなたとわたしのスキとキライの間を埋めてゆく ――なんて楽しいんだろう!」
人にはそれぞれのスキとキライがある、それを、心と心が近づくようにスキとキライの間を埋めていって近づけていけたら…とラストで締めているあたりがとても優しい語り方で好きなところでした。
ヤマシタトモコさん…yori様がきっかけでまた素敵な作家さんと出会えてとても嬉しいです!私もブログ記事で感想など取りあげたく思っちゃいましたが、ヤマシタさん作品の数も読めていないため、またたくさん読めてきましたら感想あげられたらいいな、なんて思います。

あとあと、よしながさんの「愛すべき娘たち」のマルクス主義の祖父の思想の元に育った娘さんの話なんですが、私も美しいお話だな、とも思いつつ、博愛の正体とはいったい何なのか…と考えさせられるものがありました。全てのものを愛する、というのは、イコール「全てのものに愛着がなくて、ある意味無関心なのではないか」という怖さ。人間心理の深さを感じられるお話で、私も鳥肌が立つほど鮮烈なお話でした。またこちらについても色々お話できたら嬉しいです。

ではでは、またお話させてくださいね!いつもながら長文失礼致しました(笑)

わわわ、こんばんは~

>ぺこさん

感動的なコメントをありがとうございます!!
いやもう丸ごとご自分の所に上げればいいのにっ!私の所になんてもったいない~。
そして今更なのですが、私なんぞに「様」はいらないのです。どうぞ気楽にというか、気軽にお願いします~。
この感想を上げた時の自分のテンションが「恋愛」方面に向いていなかったせいか、結構微妙な感想を書いてしまった自覚があったので、手に取って頂けたことがとても嬉しいです。ぺこさんのコメントを読み、すぐに読み返しましたが確かに「スキ キライ」で構成されているシンプルな世界観と、複雑だけど真っ直ぐで真っ当な貴和子が本当に魅力的に描かれているなと改めて感心しました。バレエだけを見てきた彼女には、女性特有の生々しさというか黒かったり汚かったりするところがあまりなくて、凛とした美しさがありましたね。彼女が「処〇」であることの卑屈さも適度な描かれ方で、ヤマシタさんは「童〇や処〇が好き」とインタビューで仰っていましたが、きっと「処〇と枯れた男」という記号が著者自身の萌えなのだろうと思いました。あと、根っから文化系の人間なもので、彼女の逞しさは「文化系体育会系」とおまけ漫画で表されるバレエによるのかと思うと、ちょっと羨ましくなりました。アウトドア的なことに誘われて戸惑う縫原さんが可愛かったです。

ヤマシタさんは独自の世界観や嗜好を徹底的に貫きながら面白い作品を発表し続けている稀有な人だと思います。そして、ぺこさんも仰るように台詞に凄く力がある人だと思います。デビューは間違いなく「BL」でしたが、だんだん「BL?」といった感じになり、私はもうBL漫画と思って読むことはやめました(笑)もし次に読まれるものを探しているのならば「イルミナシオン」なんて如何でしょうか?お勧めですよ~

そして「愛すべき娘たち」のあの話ですね。自分の話で恐縮ですが、彼女のことは他の話とは違った思い入れがあるのです。彼女のように徹底はされていなかったのですが、小さい頃に親戚の影響でキリスト教にドップリ漬かって育ったことがあり(祖母宅で暮らした時期なので短期間でしたが)、後々周囲の子供たちが「イエス様」を信じていない(気にしていない?)ことが判明した時に受けた衝撃がとても大きかったのですね。言葉は乱暴ですが「偏った思想」を「ただ一人で受けること」の恐怖といいますか・・・。彼女が人を愛せないと気が付いた時の絶望と諦観と希望はどれほどのものだったかと思うと、よしながふみは凄い話を描いたものだと驚いてしまいます。博愛は無関心と紙一重、確かにその通りかもしれません。本当に深くて怖くて美しい話です。

こちらこそ長々と失礼しました!長文大歓迎です(笑)これからも遊びに来て下さいね!




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