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一般書感想「船に乗れ!」藤谷治

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏船に乗れ!〈1〉合奏と協奏
(2008/10/01)
藤谷 治

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船に乗れ!(2) 独奏船に乗れ!(2) 独奏
(2009/07/02)
藤谷 治

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船に乗れ! (3)船に乗れ! (3)合奏協奏曲
(2009/11/05)
藤谷 治

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高校の音楽科に通う主人公・津島サトルと個性豊かな仲間たち。彼らが過ごす音楽漬けの日々に、青春時代のきらめきと切なさを色濃く映し出した、本格青春小説三部作。

すごく、すごく面白かった。久々の腐読み一切なしの一般書感想です。
最初はあらすじも入れてダラダラ書いていたのですが、どう頑張っても私の力じゃ何も伝わらないと思ったので投げました。大体、エンタメ系青春小説にあらすじ入れた感想なんて無理なんだよ…。諦めようかとも思ったのですが、とりあえず吐き出しておかないと次に進めそうにないので上げてしまいます。いや、ホント自己満足なのですけどね。

昔同僚が「海辺のカフカ」発売日に有休を取っていた事を思い出しました。「今日は春樹休暇なの~」(30代男)と実に嬉しそうに笑っていたっけ。もし私がこの本を1巻からリアルタイムで追っていたら、間違いなく3巻発売日には休みを取っていた。「船休暇なの~」って云ってみたかったよ!!

ただ惜しむらくは先週読書に思うように時間を割けなかった為、読了したのが職場の休憩室だったこと。人目があるので顔にハンカチ押し当てて水分を吸収しながら(目から鼻から止まらない!)の読書だったので、ちょっともったいないことをしたなーと思いました。
青春時代が美しいだなんて思わない。
あれだけみっともなくてカッコワルイ時代を、その恥ずかしさを、ふと思い出しては未だに「ヒィッ」となる私には、青春時代を美しいだけの時だとはとても思えない。キラキラと表現するにはおこがましく、ギラギラと云うほど必死でもなく、ジタバタという往生際の悪さと慌ただしさがしっくりくるような、そんな時代だった。
そこには確かにあの頃だけの「生」が存在していた。
だけど時代は途切れているわけではない。
すべては同じ船の上。今も航行は続いている。


この小説は青春時代の悔恨を容赦なく描く。
物語半ば、そこに明るさは微塵も感じられなくなる。
音楽によって生かされ、音楽によって殺された寄る辺ない魂の叫びは悲痛でしかない。しかしそれでも無情に存在する音楽によって再生する希望の物語でもある。そもそもが「選ばれなかった」数多の人間の負の声を代弁する「思い出語り」でしかない反面、過去を振り返る「僕」の声は、同じ過去(青春時代という意味での)を持つ人すべてに訴えかける力を持っている。それは云うまでもなく、この世には圧倒的に「選ばれなかった」人たちの方が多いからだ。これは「天才」の話ではない。もしかしたら、「秀才」の話でもないかもしれない。この小説にのだめや千秋は登場しない。彼らと同じ舞台に上がる人間ですら、存在しないかもしれない。これは、潔いくらい「普通」の音楽高校生の話なのだ。
楽器やクラシックがわからなくても一切関係ない(「のだめ」を例に出すまでもなく)
読めばわかる。この小説には大きな力がある。

散りばめられた哲学趣味と、青春小説のお手本であるかのような爽やかな恋の物語。そして何よりも音楽にすべてを捧げる音高生達の情熱に息苦しさすら覚える序章部分は、読み物として十分読者の知的好奇心と読書欲を満たしてくれるだろう。
しかし物語が一気に動くのは2巻半ば。
サトルはある人物の人生から呆気なく「なかったこと」にされる。
そして彼もまた、ある人物の人生を取り返しのつかないやり方で「変えて」しまう。
主人公のサトルが経験する痛みは高校生の少年には過ぎる痛みかもしれない。しかし、彼のその後の人生にいつまでも付いてまわることになる「罪と罰」を、読者(私)はただ傍観するだけではいられないだろう。心が粟立ち目頭が熱くなる。彼が選択したことによって失った物事の取り返しのつかなさ、どうしようもなさに、立ちつくし為す術もない私は、まるで彼のすぐ側に立っているような錯覚すら覚えた。自意識過剰で傲慢で、その実何一つとしてわかっちゃいない凡庸なサトルが他人とは思えなくなってくるのだ。

この小説を彩るのは、間違いなく「悔恨」だ。大人になってもなお(語り手は四十間近のサトル)青春時代の罪に縛られ続けるサトルの告白は痛々しい。そして何よりも無情なのは、何が起きても彼にとって「音楽」がそこに存在するということだ。あらゆる痛みや悲しみを超越して彼の前に立ちはだかるその「壁」に対して、彼はある結論を下すことになる。もっとも分り易く、もっとも筋が通った、もっとも残酷な理由で。

始め、音楽は只そこに存在するだけだった。
それはとても美しいものだけど、でも、サトルにとっては、只存在するだけのものだった。
それが最終楽章で一気に弾ける。音楽とは「人の為に」存在するのだという疑い様のない真実を、彼は発見する。ひたすらに美しい「音楽」というものが、サトルの中でもっと強靭な何かに変わった瞬間だったのだと、私は思う。もっとも、「音楽」はすぐに無情にも元の姿を取り戻し、サトルはその圧倒的な美しさの前で為すすべもなく苦しむ日々を送ることになるのだろう。それでもその一瞬、音楽が「彼のもの」であったという事実は、彼の航行を照らす光にもなるのだ。
そしてラスト、これ以上はないという希望によって、物語は見事な完結を迎える。

「涙なくして読めない」などとは陳腐な煽り文句だが、最終巻半ばからずっと泣きっぱなしだった私が云うのだから間違いない。「感涙」とはこういう小説の為にあるのだと、久々に思った。素晴らしい読書体験だった。



以下、ちょっぴり斜め読み

この小説には(よほど鈍くない限り)大変わかりやすく、このブログで取り上げるべき人物も登場する。でも彼について触れるのは無粋な気もするし、萌え的な感情はまったくもって抱かなかったので詳しくは書かない。唯一の「本物」かもしれなかった彼もまた、才能とはまったく関係なくサトルの人生から「なかったこと」にされかける。高校生という一時代の人間関係の儚さと、かけがえのなさを演出するのに、十分な人物だったように思う。そしてプライドの高いサトルは、彼の性質に気が付いたのは大人になってからと云うけれど、そういった雰囲気を感じ取っていたからこそ、彼らは共に居ることが出来たのではないかとも思った。

諸々不完全燃焼ではありますが、文句なしにおススメします。
3巻ハードはお高くてという方は今のうちに図書館へ!来月頃にバーンッと話題に上るかもしれないので!



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はじめまして

こんにちは。
素晴らしい小説でした。
そして大変力のこもった感想、共感しながら読ませていただきました。
本当に第3巻の後半からは涙をこらえるのが大変でした。
この作品、本屋大賞にノミネートされていますが、
ぜひ「取ってほしいですね。

こんばんは!

>木曽のあばら屋様

ご来訪&コメントをありがとうございます!
拙宅始まって以来の男性の方のコメントということで驚き緊張しております。

登場人物の名前も出さない不親切な感想ですが、もったいない言葉を頂けてとても嬉しいです。
音楽と併せた感想には感嘆のため息です。後ほどまた改めてゆっくり拝読したいのですが、「ツッコミ」には肯かずにはいられませんでした。というのも、私も「彼女」に起きた出来事だけは、どうしても浮いているように感じてしまって仕方がないのです。その「虚構」だけは何か違うのではないかと。それ以外は本当に文句なしに素晴らしかったです。

本屋大賞はこの作品が取るのではないかと予想しています!
結果が楽しみですね♪
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Author:yori
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