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「世界の果てで待っていて 天使の傷跡」高遠琉加

世界の果てで待っていて ~天使の傷跡~ (SHYノベルス138)世界の果てで待っていて ~天使の傷跡~ (SHYノベルス138)
(2005/09/10)
高遠 琉加

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元刑事の黒澤統一郎は、渋谷区神泉に黒澤調査探偵事務所を構えている。そこにはいろんな人生を抱えた人が訪れる。ある雨の日、少女と見紛う少年・奏がやってきた。三年前に行方不明になってしまった双子の兄・律を探してくれ、と。一度は依頼を断った黒澤だが、かつての同僚で現役刑事である櫂谷雪人もある事件の関係で律を探しており、ふたりは協力することになる。静と動。理性と本能。好対照な雪人と統一郎の関係は、統一郎が刑事をやめてからも続いていた。甘い一夜の記憶を忘れたふりをして。複雑に絡み合う過去と現在。彼らの未来は―。

ここに遊びに来て下さる方の何人かはもしかして、ブログタイトルを見てこの本を思い浮かべたりするのだろうか。100質でも答えた通り、嶽本野ばらの「世界の果てという名の雑貨店」から貰った名前なのだけど(ただし未読。検索したら「世界の果て」という言葉をタイトルに冠した本は50点近くあった)、もし開設当時に私がこの本を読んでいたら、たぶん畏れ多くて名前には使えなかったと思う。「世界の果て」という言葉を名乗ることを今とても申し訳ないなと思うと同時に、妙に嬉しくなってしまったのも事実。それほど素晴らしい小説だった。

暗い穴の淵を歩いている。たまに覗きこんでは自分がまだ穴に堕ちていないことを確かめる。
でもある日、彼は気が付くのだ。自分がとっくのとうに穴の中から空を見上げていることに。


探偵と刑事が出てくるというからどんなハードボイルド系かと思いきや、舞い込む事件は双子の片割れ捜索と、それに付随するコンビニ強盗事件。センシティブに感じられる双子の事件に血生臭さはなく、全体を通してもとても静かな話。しかし、芯からの明るい雰囲気とは無縁の混沌とした舞台に「渋谷」という街が選ばれたのにも肯ける。冒頭の1頁を読んで自分が高遠さんを見くびっていたことを思い知らされた。美しい文章を書く作家は他にもいる。でも、美しさと硬質さを併せ持った文章を(要するに私好みの文章を)こんなに見事に書く作家は知らない(今まで何作か読んでいたのにそこまで強く思わなかったのは、高遠さんのストーリーではなくキャラクタが苦手だったからと思う…)。
上記の言葉はパッと浮かんだ黒澤のイメージなのですが、たぶん彼の居場所が「谷」だと表現されることからです。余談ですが最近書き始めにポエミーなことを書いているのはたまたまで、書こうと決めたわけではありません!恥ずかしい感が増していて申し訳ないですが、そういう時期のようです(笑)

黒澤と雪人の間には明確な言葉は何もない。互いの感情をはかり、推測し、自分の内に留める視線の応酬と、時折訪れる肌の感触があるだけだ。言葉に表されない感情を「恋愛」だと思うには、あまりにも冷え冷えとした膜を黒澤という男は張っている。外見とは裏腹に、熱は終始雪人の持ち物のように感じた(彼は理性的で合理的だけど、キレたらとんでもない行動に出るタイプだと思う)。BLというよりも、とても「ニア系」に近い雰囲気を持つ作品で、だからこそ、過去に一度だけあった肉体関係を持つことになる経緯が胸を締め付ける。
「もしたられば」なんて小説感想には無粋だとも思うけど、もし、自分が雪人であっても絶対に同じ行動をするだろうなと思うのだ。理屈ではなく本能で雪人が黒澤に抱かれたように、すべてを差し出さずにはいられないだろう。それだけの説得力がある切羽詰まった暗闇を描いて、でも、その一瞬の繋がりは黒澤の人生を救いはしない。雪人の存在は黒澤にとって確かに光でもあるのに、それは実はとても微かな光なのではないかとも思わされるのだ。恋や愛によって容易に救われることのない孤独な黒澤を、いつまで雪人は引き留めておけるのだろうか。

この話はいつも私が好みだと主張するパターンとは反対の「問題がある攻め」の物語なのだ。作中やたら「もてる」と連呼される黒澤は、文字通り本当にもてる男。人好きのする外見と魅力的な内面を兼ね備え、でも「やわらかい笑顔」で人との間に「壁」を作る男。不思議な事に私は彼が雪人によって救済されるとは思えなかった。淵にある彼の精神をどうにか出来るのは、最終的には彼自身なのだろうと思う。そして不謹慎だけどそのギリギリ感がこの黒澤という男を大変魅力的にしていて、作中の女達同様にクラクラしてしまった(笑)。また、私が高遠作品に今までこれ程の魅力を感じなかったのは、受けの造形にあったのだと思う。高遠さんの描く受けの痛みは、読んでいて辛いのだ。辛くて目を背けたくなるから、再読が出来ないのだ。だけど雪人は、怜悧な表情の内側にとても単純で熱いものを持っている男。彼が黒澤に抱かれていた時に、終始「嫌悪感」が消えなかったというのも雪人の強さのようなものを逆に表現していて、なんとも頼もしく魅力的な男だとこれまたクラッとした。要するに、二人ともカッコイイのだ!!

05年刊行だけど後書によると続編があるそう。確かにこの巻では二人の関係は過去形でしか語られない。互いをかけがえのないものと認識しながら、その先には進まない(進めない)ジリジリ感も捨て難く、個人的にはこのまま終わりでも構わないけれど、黒澤が自身の闇にどう決着を付けるのかを見てみたい気もするので、やっぱり続編を待ちたいと思います!良い本を読みました♪

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『世界の果てで待っていて -天使の傷痕-』

世界の果てで待っていて -天使の傷痕- 高遠琉加/雪舟薫  大洋図書シャイノベルス 2005.09高遠さんと雪舟さん、元刑事の探偵と現職刑事という組み合わせに発売前から大きな期待を抱いていましたが、その期待は裏切られませんでした。高遠さんの最近の作品タイトル?...

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こんにちは!yoriさん。
大好きな作品のレビューを挙げられていらっしゃったので、嬉しくなってまたもコメントに馳せ参じました。
ちなみに、TBは失敗したので↑URLに直接アドレス張りました。
私の記事は3年前と結構前なんですが、よろしければ遊びに来てくださいませ。

で、どれくらい好きかと言うと、万が一無期懲役刑を喰らって余生を独房で過ごさなければならなくなってしまった時、たった1冊だけ本を持っていけるとしたらこの作品を選びます。
正直、高遠作品という意味では今のところはレストランシリーズや犬と小説家と妄想癖がマイベストなんですけど、それはこの2作は一応物語が完結しているから自分の中の価値が確定しているからなんですよね。
でも、世界の果て~は未完…この続きを読むまでは死ぬに死ねない!と思っています(ちなみに、原稿自体は2006年の時点で書きあがっている筈なんですが…ね…)。

で、黒澤が櫂谷によって救われ得るのか…と言えば、私も五分五分の確率だと思っているのです。
でも、彼が救われるとしたら櫂谷しかいないとも思っています。
ただ、“救済”という観念も読者の身勝手な願いだったりする訳で、作品の展開は殊に高遠さんなだけに油断できません。
高遠さんが扱う世界の果てとか、天国とか、楽園とか、夢の庭と言ったフィールド(プレイス/場所)のモチーフは、いつもオフィーリア的なニンフの沼(黄泉津平坂でも良いですが)に引きずられやすい美しいけれど怖い/暗い場所だったりするので、私も読むのに心構えが必要ですし、『最後から一番目の恋』のように非常に再読が困難な場合もあります…。
でも、過程の描写に確かな大切なモノがあるから、今となっては一番大好きなBL作家さんなんですけれど(元々は、魚住君シリーズでBL小説に転んだ筈なのに!w)。
yoriさんはドラマCDを聴かれないかもしれませんが、ドラマCDも傑作です。
機会がありましたら、こちらも是非!

ではでは!

yoriさん、こんばんは。

tatsukiさん同様、私も、大好きな作品のレビューだったのでコメントに伺いました。
私の感想はさらに以前で4年以上前ですが、TBさせていただきましたのでよろしくお願いします。

> 私は彼が雪人によって救済されるとは思えなかった。淵にある彼の精神をどうにか出来るのは、最終的には彼自身なのだろうと思う。

この部分、私も同感です。
黒澤が抱え持つ闇を、櫂谷は確かに照らし、かなたに明るい光があると示しているけれど、黒澤は闇から出て光の下へとは来ないかもしれないと思うんです。闇に抱かれたまま、そこからじっと光を頼みに見ているだけかも、と。
私自身が感想で書いたことを参照すると、

> この作者が喪失の穴を埋めるために用意するものは、決して高次的な与えられる救いではなく、共に痛みを分かち合う存在です。その存在も決してパーフェクトな人間ではない、けれどぴたりと寄り添う-----そのような。

高遠さんという作者は本当に油断がならない方なので、どういうふうに彼らの結末をつけるのかが楽しみでもあり、怖くもあり。
なにがしかの救いはあるのだろうけれど、そもそも恋愛が他の何をも凌駕するという考えじたいが驕っていますよね。
ああ、続編が読みたい!!

そしてyoriさんが言われた、ニア系に近い、という言葉になるほどと納得しました。
ギリギリの緊張感がいいのかもしれません。

私もこっそり主張しておきますが、ドラマCDも傑作です。
もし機会があれば是非聴いてみてください。…素敵ですよ。

ではでは、長々と失礼しました!

>tatsukiさん

コメントありがとうございます!
それはもう、高遠さんと云えばtatsukiさん♪と勝手に脳内変換されるぐらい、好きだということは存じていますとも(笑)!

意識して「無期懲役刑で―」という状況を選ばれたとしたら(一番好き!というニュアンスとは異なるという意味で)、それはまた大変に肯いてしまうところであります。作品の構成そのものが心を動かすように出来ているエンタメ作品ではなく、何度繰り返して読んでもその度に新しい発見と読み手の思索を深めてくれるような話であり、まさに「箱の中」で読むのに相応しい作品なのではないかと思いました。
完結した暁にはどう感じるかわかりませんが(そして怖いですが)、まだ過剰な痛みを感じる展開ではないのも、私としては繰り返し読むことが出来るので嬉しい限りです。

彼らの恋愛面よりも、黒澤の内面の葛藤に的を絞ってきそうな予感のする続編ですが、だからこそ、彼らが一体どのようにして、BL的まとまりを見せるのか、もしくは「見せないのか」が非常に気になるところです。
そう、何をもって「救済」」とするのか?そもそも黒澤に「救済」と名の付くものが必要なのか?それは作家様にしかわからないことなのですよね。二人の関係と想いは安易に名前の付けることが出来ない複雑なもので、他者と深く関わる手段(理由)に「恋愛」を基本として捉えがちな、BL読者である時の自分に軽いパンチを喰らった気分です。

感想では触れなかったのですが、脇に据えられた水田と律には、tatsukiさんが仰るように例え何らかの関係があっても良しと思わされました。渋谷という穴の底のような土地を舞台にしながら、日常と非日常の境界はどこまでも曖昧で、そこに舞い降りた天使の話はもっと深く掘り下げるべき寓話のようにも感じられました。全体的なテンションと文芸臭はそれこそ「魚住くん」にも通じるものだと思います。そういった作品ばかりになっても食傷気味になるのは見えているのですが、広いBL小説の世界で「世界の果て」のような作品に出会えたことを本当に嬉しく思います♪

ドラマCD!確かに私は普段CDを積極的に聞かない人間なのですが…速攻でサイトに行って値段とにらめっこしてきました(笑)購入したら報告しますね~

>秋月さん

コメントありがとうございます!
もう本当に何を今更という感じのアップだったので、お相手して頂けてとても嬉しいです。それだけ、月日が経っても色褪せずに読み手の心に何かを残す(完結していないことを別にしても)素晴らしい作品だということですよね。

> この作者が喪失の穴を埋めるために用意するものは、決して高次的な与えられる救いではなく、共に痛みを分かち合う存在です。その存在も決してパーフェクトな人間ではない、けれどぴたりと寄り添う-----そのような。

多くを読んではいないのですがわかる気がします。「痛み」と云えば木原さんばかりが名高い印象のBL界ですが、高遠さんの与える痛みは何処か普遍的で、「BL(ライトノベル)だから」と侮っているといつの間にか引きずり込まれてしまいます。苦悩する人物の救済を、恋愛相手だけに委ねることを良しとしない、関係性への強固な意志すら感じるといいますか。他者は「切掛け」であって「すべて」ではないという 、恋愛小説では等閑にされがちな人間関係の一側面を見せてくれるのだから、痛くなるのも当然といいますか。

最初「ニアっぽい」と思ったのは、単純に冒頭の「渋谷」のモノローグにやられてしまったからなのです。漂う文学臭に私のような半端本読みはイチコロでした(笑)でも読み進めるうちにそれだけではないなと。たぶん、雪人がどこまでも「男」だったからというのが大きな理由なのだと思います。「男が男に身体を差し出してもいい」という状況を、「好きだ云々」を飛び越えた本能的な交わりのように描いているのが、とにかく凄いと思ったのです。あの場面では少なくとも黒澤の方にしか恋愛感情はなかったわけで、でもそれすらも言葉にはされていなくて、上手く云えないのですが、こんな男と男の関係を読みたかったのよ~!と喝采を上げる感じでございます。人と人の交わりを色恋や情欲(ある意味情欲ではあったのでしょうが)に依拠せずにBLで描く。この二人が続編で一体どのようになるのか!?怖くもあるのですが、とても気になります!

ドラマCDおススメありがとうございます!今、品番をメモるところまでいきました。
あとは近所のCD屋の兄ちゃんに「これ、お願いします!」と笑顔で差し出すだけです(笑)

これまた今更なのですが、リンクを貼らせて頂きましたのでよろしくお願いします!

yoriさんこんにちは~。
わーい私の好きな本!と思って嬉しくなったので、コメント残して行きます。
はじめて読んだ高遠作品だったので、すっごく印象深くて、感想も楽しく拝見しました!

第一印象って、人付き合いでも重要だと思いますが、読書でも同じかも。この作品で出会ったからだと思うんですが、高遠さんは、とても信頼している作家さんです。
いつ出てもおかしくない状況なので、そろそろだろう、と思って早ン年。今年こそ続編が出るといいですよね。

>かのさん

こんばんは!
コメントありがとうございます♪

わわわ、かのさんもお好きだなんて本当にどんだけ名作なの!?と改めて読んで感想書いたことを良かったな~と思っています。

BL小説を本腰入れて読み始めてからまだ日が浅い私ですが、高遠さんには熱狂的なファンが多いなぁというのは前々から感じていました。私は昨年話題になった「レストラン」で出会い、その後何作か読んでみましたが、今のところ「世界の果て」が一番好きです!

本当に「今年こそ!」になるととってもラッキーなのですが(笑)
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