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「高潔であるということ」砂原糖子

高潔であるということ (幻冬舎ルチル文庫)高潔であるということ (幻冬舎ルチル文庫)
(2010/02/16)
砂原 糖子

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真岸悟は、ある事件を起こした志田智明への復讐を弟に約束していた。約束の日である五年後、復讐を促すメールが真岸に届く。志田の税理士事務所で働き始めた真岸は、最初は冷たい男だと思っていた志田が不器用なだけの優しい人間だと気づき、惹かれ始める。そんな真岸のもとには、復讐を忘れるなと念を押すようメールが届き…。

お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、私は挿絵よりも「タイトル」にグッとくる人間です。
刊行情報を見た時から珍しく「これは!」と思い楽しみにしていました。「高潔」という単語を題に冠した書籍は「e-hon」によるとナント4点しか刊行していないのですよ。もっと多そうな気がしていたので驚きました。ま、うち2点がBL、1点がハーレクインなのですが(笑)「高潔であるということ」と題に持ってくるのならば、著者は当然その問いかけに対する答えを作品で提示しなければいけないわけで、砂原さんがそれを一体どうやって表現するのか、「高潔」という単語の圧倒的な力に果たして負けてしまわないのか、などと勝手に一人でハードルをあげて盛り上がっていました。しかしこれは表紙買いもあり得たかもしれません。何、この不穏な迫力。九號さん良い仕事しています。

以下、ネタバレ注意なのでたたみます。

***
***
時の経過に伴う記憶と罪の意識の風化を、加害者と被害者の側から描く社会派小説的な一面を持った非常に面白い作品でした。上手いのは、主人公真岸と実際の被害者との距離感ですね。身内でもない、恋人でもない、友人でもない、でも親しくしている大切な人。その「遠くはないけど決して近くはない=復讐を名乗るには不足なように思われる」存在を最初に描いて、砂原さんは読者の心に「えっ?」という違和感を与えることに成功している。また、加害者とされる志田に下された法的な判決は「過失致死で執行猶予付き」という極めて灰色のものだった。当時飲酒運転の疑いまであった志田への判決は、真岸兄弟達にとっては当然納得のいくものではなく、限りなく曖昧な敵に対峙する時に、人はどのような行動に出てしまうのかということを考えさせることにも成功していると思います。

25歳の青年に与えられた長くて短い休暇に、彼は弟との約束であった復讐を実行しようと決めます。真岸が選んだ復讐方法は、志田の「幸福を奪う」というこれまたとても漠然としたもの。志田の幸福とは一体何か?そもそも人を殺しておきながら生きる男の心はどうなっているのか?真岸は志田に近づいていく。
この志田という男の造形がなんとも突き抜けていて、正直「木原さん宅の人?」とまで思ってしまいました。一見すると無口、無気力、無表情の無い無い尽くしの男で、事実彼の情緒は明らかに平均的な(一般的な)ソレとは離れているのですが、だからと云って本当にその通りのわけでもなく、彼は彼なりのルールというか方法できちんと真面目に、馬鹿が付くほど真面目に生きている。悲しいほどに不器用で、でもその不器用であることを少しも改善しようとしない頑なさを持ち、自分が世間と相いれずに「生き辛い」ことも自覚しているのにそれを一方的に「自分は空気が読めないから」と諦めて生きる32歳。そんな男に「幸福」と他人が判断するに足りる持ち物があるわけもなく、それどころかあまりにも「何も無い」志田に真岸は呆気にとられるのです。志田に奪うモノがなければ、社会的制裁を受けずに復讐するという目的の遂行自体が危うくなってしまう。追い詰められた真岸は「自分が志田の幸福になればいい」と、恋に落ちたふりをして志田の内面に踏み込んでいくことに―。

藍川さとる先生の漫画に「偽善でも善は善」という台詞があり大変共感するのですが、では、「善行だと本人が認識しない善」は一体何処に行ってしまうのでしょうか。誰に気付かれることもなく、自身ですら意識をしておらず、そうやって消えていくだけの善行をひたすらに行う人間がいたとしたら、確かにその人物に「高潔」という名は相応しいのではないかと思います。他人が落したコンビニのおむすびを買い、枯れかけの切り花を敢えて手に取り、限定品を後ろに並ぶ人に譲り、誰も目を通さないかもしれない経営計画を人知れず作成し、目に入る墓標すべてに花を活け、それら一切を他人の目を意識することなく自然に行っていた人間、それが志田でした。そんな志田は確かに変なのだけど、でも何故彼が変だと感じるかを突き詰めて考えた時に、「善行とは他者が見ているからこそ」という本音が浮かび上がってもくるのです。それは誰かに見ていて欲しいという自己顕示欲だけではなくて、「他者が認識してはじめて善行になる」という意味でもあります。だからそれまで志田が行ったすべての事は、ただ、宙に消えていった「何でも無い事」。それに真岸は気が付いてしまった。積み重なるエピソードと並行して近づいていく二人の身体と心の描写は静かなのに鬼気迫っていて、でも同時にどこか間が抜けていて、砂原さんお上手!!としか言葉が出てきませんでした。

そしてネタバレ注意の重要な仕掛けについて。
反転「期待通りの叙述トリック!」
読み始めから感じていた違和感を肯定される快感といったら!私はこの手の手法を使った小説が大好きなのです。何か変、何か変、でも確信には至れないというゾワゾワ感といいますか。もっとトリッキーにしても楽しかったと思うけど、作品のテーマを考えるとこのぐらいが良いのかな。忘れようとしなければ忘れてしまうという不安が底にある「記憶」と、忘れようなんて思いもしない「記憶」。両者の対比が見事なまでに鮮やかで、読んでいて本当に気持ちが良かった!無い無い尽くしの男が恋を知り徐々に心を開いていく様は可愛くて、恋愛部分も文句なしに面白かったです。

以前に他ブログ様が仰っていたことですが、私も砂原さんの「お名前」には騙されます。名前と作品と後書のテンションのマッチしないことと云ったらない(笑)むしろ真逆の性質を持っている方のように思うのですよね。だって、文体もすごく荒っぽいですよね?今回も読んでいて「ん?句読点はどこ?その一文はどの前文に掛かるの?」という部分がとても多かった。でもそれが荒涼としたシリアス系の今作には非常に合っていました。
良い本を読みました♪

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