スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「炎の中の君を祈る」樹生かなめ

炎の中の君を祈る (クリスタル文庫)炎の中の君を祈る (クリスタル文庫)
(2004/10)
樹生 かなめ

商品詳細を見る

天才科学者清水昭利の高潔な理想は、周囲の人間の欲望によって裏切られていた!そして彼が魂を削って開発した限りなく人間に近いアンドロイドもまた―。予想もしていなかった悲劇が現実であることを知った時、怒りは世間に疎い研究者だった清水を変え命を賭けた戦いへと…。渾身のヒューマンドラマ。


BLではない。ライトノベルという言葉も、その言葉の軽い印象から使いたくはない。
何て説明すれば良いのだろうかと考えて思い浮かんだのは「樹生さんの書いた小説」だった。

誰でもいつかは死ぬ。
それと同意義で、誰でもいつかは老いる。
余程の強運の持ち主でなければ医療や介護(程度の差はあれ)を受けながら老いることと無縁ではいられない。
祖父母、父母、義理の父母、夫、そして自分自身。この先の人生に、一体どれだけの人の老いと死を見つめなければならないのかと思うと気が遠くなる。誰もが通った道である、何も恐れることはないと気持ちを奮い立たせるには不安要素が多すぎる(社会的にも個人的にも)この問題。
物語冒頭、樹生さんはこれでもかと容赦ない現実を淡々と描写する。近未来というフィルターが掛かったとしても、人の死をめぐる周辺で起きている諸々は今日の状況と変わらない。介護疲れによる近親者の殺害、心中、嘱託殺人などが頻発し、最期のときを安らかに迎えることの困難さがひたすら描かれる。誰もが疲弊している。医療従事者とて例外ではない。過労によるストレスは人の心から余裕を奪い、表情からは笑顔を奪う。そんな状況に絶望した天才科学者がいた。彼はその絶望を糧に、自分のすべてを投げうって究極の人型アンドロイドを開発し、時代を変えた。そして人型アンドロイドが開発されてから数十年後、天才科学者の高潔な意志を引き継いだ清水は、より良い人型アンドロイドの研究開発が自分の使命だと信じ、日々の研究にすべてを捧げていた。

アンドロイドは命令されたことに決して逆らわない。清水は彼女達を「聖女」として崇めているが、その想いが大多数の一般的な人間に伝わることはなかった。従順な性格に容姿も生身の人間と遜色ない「女」。その末路に何があるか、想像するのは容易だ。だけど、アンドロイド研究にすべてを捧げて生きてきた清水はわからなかった。彼女達に完璧な「女性器」を付けるように命じられてもなお、わからなかった。病人を癒し、介護者を抱える家族を救い、医療従事者を助け、それでも微笑みを絶やさない理想のアンンドロイドを作り出したと信じていたのだ。清水は自分の無知を、知らずに犯してきた罪を知り憤慨する。
アンドロイドの彼女たちが辿ることになった運命は悲惨極まりないが、それと似たような現実だってそこかしこに転がっている。従順であることは決して美徳ではない。反抗の声をあげなければ搾取される一方の関係がこの世界には確かにあるし、いつだって割を食うのは女の方が多い。従順な人間もまた搾取されるだけであるという現実だ。
なぜ、この話に男型のアンドロイドが一体も出てこないのか不思議だった。小説として全体を眺めた時に、たとえば私は清水を取り巻く男達のある1名が「実はアンドロイドだった」というオチになるのかとずっと考えていた。だけど終始徹底して男のアンドロイドは描かれない(存在はするが清水と関わることはない)。正直、とても偏った小説だと思った。あまりにも「書きたいこと」が明確にすぎて、それ以外は作者の目に入っていないと。例えるならば、起承転結の「起」しか描かれない小説。言い換えればそれは問題提起の「起」でもあるのだが、続編が必要な話と云うわけでもないのだ。読んだ後に強烈な痛みと、だけど確かな希望を残して燃え尽きるような、力が籠った小説だった。

読み終えた直後のその感想は、後書を読んだことで確信に変わる。

樹生かなめは元医療従事者です。労働基準法完全無視で働いていた時代のことは、今でも鮮明に覚えています。また、樹生かなめは病人を抱える家族でもありました。あの時のことは生涯忘れないでしょう―(中略)
この本だけははっきりと言います。
この本は書きたくて書きました。書きたくて書きたくて仕方がなかった。


ああ、そうなんだろうなと。本当に、本当に、作者はこの話を書きたくて書きたくて仕方がなかったのだろうなと。私は普段、後書というのはあくまで後書で、本編を捕捉するようなものになるのはあまり良くないと考えている読者だ。でも、この後書は、この話に必要だったと心底思った。なんだろう、書き手の「血」を見たような気がしたのだ。何があったのか語られなくても、十分伝わるような、読む手が震えるような言葉の羅列だった。

多くの問題をはらんだ作品で、読み手を選ぶ内容だとも思う。数年前の自分なら、もしかしたら「アンドロイドの人権面」に反応しただけで終わったかもしれない。清水もまた、会社という営利団体に属する人間だということを考えることはなかったかもしれない。介護、医療の問題についても同様だ。とても重い話なのだけど、清水と彼を取り巻く男達とのやり取りは可笑しいし(最初にBLではないと断ったけど、そういった要素は本当にない)、ギリギリのユーモアがある。そう、絶望は見えないのだ。わかりやすい救済は与えられなくても、でも、清水は諦めずに立ちあがった。その姿は希望以外の何物でもないと思う。読み終えたあとにタイトルの意味を知り、また震えた。





コメントの投稿

非公開コメント

そうですよね。

これを出したクリスタル文庫はすごいなあと思います。だってBLとはいえないですもの。

高潔すぎたゆえに騙されてしまった主人公ですが、誰も彼を責めることはできないし、騙した会社が悪いのかとなると、これもまたよくある話というか、どんなに汚くても利益を生むのが企業であって、そんな巨大組織のプロにジェクトにひとりで立ち向かえるわけがないし、関わる人たちのしがらみや、利権だって存在する。ものすごく自分勝手な人々がいっぱいいる。

高潔でありたい、正直でありたい――でも社会に出ると、さまざまな考えを持ったさまざまな人が存在し、その中で泳ぐように生きるのは大変だったり。理想を追い求めることがなかなかできません。

どんなコメディでも樹生作品を読むと、そんなことを毎回思うのですが、それらを一番凝縮して描かれているのは、この作品かなと思います。

ラスト、自爆して終わりが綺麗だろうけど(実際、そんなマンガもあったし)そうはさせず、炎の中で立ち上がってゆく主人公に感動しました。どんな運命が待っていても、彼の成功を祈りたいです。

こんばんは

>秋林さん

改めて、この作品を教えて下さりありがとうございました!
読めて本当に良かったです。

最初私は感想にもあるように介護問題(フェミも少し含む)にばかり心が動いてしまったのですが、秋林さんのコメントを読んで肯きました。確かに樹生さんが「黄昏」でも描いていた人間社会の灰色部分(利益理想を追求する夫々に等しく事情があるのだという)をこれでもかと描いた話でもあるのですよね。

感想では触れなかったのですが、私は清水に付けられた「ピンク博士」というあだ名にとても、とても感動を覚えました。高潔な人間に付けるには、あまりに卑猥で低俗な名前ですよね。でも世間って、成功者が「性的な問題」を起こした時に、これでもかと貶めるようなことをしますよね。その残酷さをギリギリのユーモアで表現していて、ああ、やっぱり樹生さんは凄いなと思いました。連呼する清水の姿は物悲しいのだけど、可笑しくて、これはこの方にしか出来ない(やろうと思わない?)ことだわと。

そうですね、ラストは炎の中で終わってしまうのかなと思いました。でも清水は生きることと、自分の行いの責任を取ることを選んだのですよね。死んだ方がマシだという境地から立ちあがった清水を、私も応援したいです。それにしても、よくぞ編集はこの話にOKを出しましたよね!「書かせたい」という意志もきっと働いたのではないかな~なんて思いました。そしてきっと編集さんは女性だー。

長くなってしまいました。ではでは。
あっ、六青さんの「高校生もの」が読みたくてウズウズしています(笑)

プロフィール

yori

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。