「ありのままの君が好き」樹生かなめ

ありのままの君が好き (SHYノベルス)ありのままの君が好き (SHYノベルス)
(2005/04/04)
樹生 かなめ

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「俺のぶーになれよ、幸せにしてやるから」人呼んで『ぶたごりら』の四天王寺寿杏はゴリラの巨体に乙女の心を持ち、父親が死んだら自分も死ぬと断言するファザコンの成人男子である。外を歩けば後ろ指さされ、家でめそめそ泣いてお菓子を貪り食べる…そんな寿杏の家に、ある日、高校時代の同級生で父親の弁護士事務所に勤める若手弁護士・英駿二が同居することになるのだが。好き、好き、好き、好きになる?誰が誰を好きになる?人生を豊かにするウルトラ・オトメチックラブ誕生。

数ある樹生作品の中でもたぶん「龍&Dr」に次いで有名なのではないかと思われるこの作品。
読む前は8割方が笑いのコメディだろうと予想していた。ところが読み始めて数ページで涙腺が決壊しそうになり、その後もところどころで泣きそうになり、とにかく全編通してウルウルしっぱなしだった。

外見コンプレックスを強く持つ主人公といえば、先日読んだ「不細工特集」が思い浮かぶけど、寿杏に比べればあの国枝さんですらまだまだマシな方だと思えてしまう。203㎝170㎏の縦にも横にも大きな身体に人相は「ゴリラ」と表されるのも頷けるような凶相(ゴリラ、可愛いけどね)。そして、料理以外は勉強も運動も何も出来ない引きこもり気味の25歳成人男子。ただ、その心根は誰よりも優しく純粋。それ故に超が付くぐらい「卑屈」でコミュニケーション不全のファザコンという、これでもかと「(BLとしての)!?」を詰め込みまくった寿杏。そんな彼が受けなのだから、樹生さんスゲーよ・・・としか云えなくなってしまう。木原さんの「Don't Worry Mama」でもデブで性格が悪い受けが登場したが、彼は最終的には脱皮したので、そういった意味でも樹生さんはやっぱりスゴイ。

ミステリーの叙述トリックと同じで、小説ならではの手法を存分に使った作品だと思うのだ。何せ寿杏の姿は読者が脳裏に思い浮かべるしかないわけで、挿絵の雪舟さんは本当に良い仕事をしている。「不細工に萌える!」という猛者が多いのも知っているが、もしこの作品が漫画だったら、私のウルウルは3割減ぐらいはしていただろうな(ヘタレで申し訳ない)。視覚イメージがないから萌えるのだということを理解しながら楽しむ面白さがあると思うのだ。

攻めの英は私にとってはすっかりお馴染になった、樹生キャラ特有「人の話を聞かない攻め」なのだけど、彼が寿杏を見染めた理由というのが「究極の愛」なのだ。英はゲイだけど、デブ専でもなければブス専でもない普通の嗜好の男だ。そんな彼はただただ寿杏の内面に惹かれて熱烈な愛の言葉をぶつけるのだ。あらすじにある「ウルトラ・オトメチックラブ」とは寿杏の性格が「乙女」という意味と、「超少女漫画的展開」のことを指しているのだと勝手に思っている。コンプレックス故に卑屈だけど他者を嫉むことなく呪うことなく慎ましく生活する従順な寿杏。彼は外見以外ならばまさに男が理想として抱きそうな「嫁(いや、だいぶ他の能力に問題ありかな。押し売りとか詐欺とか運転とか…)」ともいえるのだ。容姿と能力が人より数倍優れている英は性格に難ありで、人と3日も過ごせばアラ探しをしてしまい結局別れるという付き合いを繰り返していた男だったのだ。寿杏の外見が内面を形成していることも含めて、英は「ありのままのおまえが好きだ」という殺し文句を繰り返し吐くのだからたまらない。寿杏が今まで他人から受けてきた言葉による暴力の数々の描写を読んだあとに、そんな熱烈な愛の言葉を読まされるのだから、私はもうコロッとやられてしまったよ!

ところで、キュンキュンする一方で実は結構大きな「怖さ」も感じたのだ。
生まれ持った外見は仕方がないとして、寿杏の性格と体形の一因を担うのが父親である嘉一だ。
嘉一は寿杏がこのままでは良くないということを重々承知しているし、息子の未来を少しでも明るいものにする為に助言なり手助けなりをしていたのだが、不仲が続いた妻との離婚を契機に寿杏の成長を投げてしまう部分がある。それは、従順なままの寿杏でいて欲しかったからに他ならない。息子が変化することを恐れたのだ。人間不信のきらいがある嘉一にとって、息子の寿杏だけが「ありのままの姿」をしていて「ありのままの姿」を受け入れることの出来る稀有な人物だったのだ。ファザコンの寿杏と嘉一の間に漂う蜜月のような雰囲気を「母と娘」に転化したら、それはもう一気に「母は娘を支配する」(斎藤環)の世界だとも思うのだ。ままま、嘉一は自分の死後を心配して、自分と同じような性格の英を寿杏にあてがう為に2人を引きあわせるという力技を見せているのだけど。
親は子供を支配することが可能なのだと、ちょっぴり暗澹とした気持になってしまった。本当にちょっぴりだけ。
寿杏は父親が大好きで、父親の世話をするだけで幸せという息子なのだけどね。

斜めな感想も抱いたけれど、卑屈なお姫様が自信満々の王子様に救われるラブストーリーとして十分に楽しめたし、深い感動すら覚えてしまった。寿杏はその体形故に道行く人に後ろ指を指されるような人生を送ってきた。自分は絶対にそんな言葉は云わないと思っても、203㎝の男が前から歩いてきたら思わず視線は向けてしまうと思うのだ。そこに明確な悪意はなくても、寿杏が感じている苦痛はその視線の延長線上にあるもので、だから「千人より俺」と本気で云う英の言葉に打たれてしまう。誰の視線も言葉も気にしない、なぜなら愛してくれるたった一人の人が側に居るから。それって、すごくすごく素晴らしいことだと思うのだ。改めて云うことでもないけど、本当にそう思う。

ぶーに幸あれ!(続編希望!!)



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『ありのままの君が好き』

ありのままの君が好き 樹生かなめ/雪舟薫  大洋図書シャイノベルス 2005.04四天王寺寿杏(してんのうじ・じゅあん)はブタ体型にゴリラ顔、ついたあだ名はぶたごりら。子どもの頃から見た目でからかわれいじめられ、気弱な寿杏は黙ってばかり。それが彼を筋金入りの?...

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続編ー!

ぶーちゃん、人気ありますよねー!
続編は出ると云われて、そのまんま放置です。
SHYはなにやってるんだか。
(もしかして絵師さんの都合?と思ったり)

酔っぱらいよりは、ぶーちゃんと岩井課長だと思うんだけどなあ。

ぶーちゃん!

>秋林さん♪

おはようございます~。
こちらも面白かったです!
なんというか、樹生さんの続編が読みたい気持ちって、2人のBL的今後が気になるというわけではないのですよ。とにかくまた「会いたい」と思ってしまう!いつか出ると良いのですが・・・。

秋林さん宅で拝見した「ひどい男」に手を出そうと思っているのですが、危険ですかね(笑)
先日蔵書整理をした際に「もう二度と離さない」を発見したので、再読して心の準備をしようかな・・・。

そーですねー…

こんばんは♪

> 樹生さんの続編が読みたい気持ちって、2人のBL的今後が気になるというわけではないのですよ。
そうそう!そんな感じです、私も♪

>「ひどい男」
「ロクデナシ」…つまり「限りなく~」シリーズ(ダリア文庫)なんですけど、甲斐がメイン?みたいなので…たぶんスピンオフ?どちらにしろ好みがスッパリ分かれます~…としかいえない(わはは♪)「もう二度と離さない」は別次元、「ロクデナシ」のほうがもっとBL寄りだと思います。

本当に樹生さんの作品は「読んでみないとわかんない」ですね(わはは♪)。なんとか買って読んでみようと思ってます<「ひどい男特集」

でもなんでコスミック出版なんだろう…。

ちなみに「限りなく~」はCD化しているくらいなので、固定ファンがけっこう存在しています。

限りなく・・・

>秋林さん、こんばんは!

むむむ、聞いたことないシリーズだと思って調べたら、絶版なのですね~
う~ん、スピンだったら更にシリーズを読んでいないとわからないですよね。しかし樹生さんとは別に「ヒドイ男特集」が気になるのも事実(笑)だって、ヒドイ男と聞いて思い浮かぶのなんて、私の数少ない読書量からは「FRAGILE」(木原さん)の受け(攻めも)ぐらいしか・・・。
ここは秋林さんの感想を楽しみに待ちたいと思います!

コスミック出版のHPを見てみたのですが、本当、何ででしょうね?この版元は雑誌・ムックがメインでもBL系は今までなかったと思うのですが。そしてアンソロのコミック作家陣が見事に知らない方ばかりです・・・。

ふふふ、明日から「もう二度と離さない」読みますよ!!

わはは♪

探してきます(わはは♪)<ひどい男特集

> 「FRAGILE」(木原さん)の受け(攻めも)ぐらいしか・・
わははは!私もコノハーラさんならまず彼らが浮かびます♪

> コスミック出版
桑原伶依さんの「お隣の旦那さん」シリーズレーベルことセシル文庫で知られている…とゆーか、「お隣の旦那さん」を読んでいる人って、果たしてどれぐらいいるの?…つまりBL的にはそんな出版社ですね。まさかそんなところから出るアンソロジーに「ロクデナシ」がくるとは…たぶん樹生さんファンにとってもビックリかと。

楽しみにしてます!

>秋林さん♪

ぜひぜひ、聞かせてくださいね~
しかし探すの大変そうです、コスミック。

コメント書いた後で、それこそ「ひどい男」といえば、「もう二度と離さない」の彼らが思い浮かびました(笑)

樹生さんイベント参加されるのですよね。
せっかく関東に住んでいるのだから、私に行ける甲斐性があれば良かったのですが。
うぅ、お役に立てず残念です~


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