自堕落な生活を送る井上一也は、ある日想いを寄せていた、成田夏生に再会する。夏生は五年前、軽蔑と嫌悪の眼差しをむけ、一也の前から突然、姿を消した男だった。夏生は借金を作った婚約者の妹が、風俗店で働かされそうになるのを身を挺して助けにきたのだ。そんな夏生に、どうすることも出来ない苛立ちを感じた一也は、借金のカタをつける代わりに、夏生に身体を要求する。期限つきの関係でいい。心まで望まない。夏生が欲しい―と。楽しみにしていた凪良さんの新刊。
本や歌のタイトルでたまに耳にする「落花流水」という言葉。恥ずかしながら、私は今作を読書中に辞書で引くまで意味を知らなかった。「諸行無常」と同じような意味だと思っていたよ・・・。正直、作品自体の感想は難しいというか辛めになってしまいそうなので見送ろうかとも思ったのだけど、言葉の意味を知ったことが嬉しかったので書き残すことにしました(我ながら変な理由だ)
感想はとっても微妙&辛めなのでご注意を~
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落花流水―①落ちる花と流れる水
②(落花に情があれば、流水にもまた情があってこれを載せ去るの意から)男に女を思う情があれば、女にもまた男を慕う情の生ずること。相思相愛。なんとも幸福なタイトルを与えられた二人のどこまでも幸福な話。
それはもちろん構わない。ただ、私の琴線に触れなかったのは、その幸福が「他者」によって成立していたからだと思うのだ。借金のカタに身体を要求というBL小説界ではよくある話も、婚約者のオチも構わない。しかし、強力な第三者のお膳立てで幸福を手に入れる姿には違和感を抱かざるを得なかった。そして第三者がお膳立てをする理由というのも、二人の逃避行自体が、後に続く因縁への伏線になっており、読んでいて戸惑いを覚えてしまったのだ。
逃避行には取捨選択が付きものだが、彼らは平穏な日常を捨て去りながらも多くの物を持ったままのように感じた。汚泥すらも生温く、だけど、彼らは只一つの恋を叶えて幸いそうである。
読者としては、彼らを庇護した男に訪れた吉報の行方を楽しみに待ちたいところ。
私は以前凪良さんがお持ちの倫理観のようなものに対して、
家族関係に対する視線がシビアという感想を抱いたのだが、強固な繋がりを持っているからこそシビアに描かざるを得ないのかもしれないと今作を読み思った。一也も夏生も「家族」の一方的な行動や期待に振り回される人生を送っている。一也は母子家庭に育ち、高校卒業後は就職をして母親の面倒を見ようと考える、素行はともかく根は非常に真面目な高校生だった。しかし母親の男の出現で事情は変わることになる。こういった流れを持つ小説もまた多いのだが、一也はいつまでも母親との縁を切れずにいる。それも当然で、母親は男と暮らしているが一也に対して直接邪険にしたことはなく、居心地の悪さを感じた一也が自ら家を出たに過ぎないのだ。親子の間に決定的な亀裂はなく、また、情も存在する。夏生もまた失くした兄の分まで過剰な期待を背負って息苦しい人生を送る青年だったが、彼と両親の間にも決定的な亀裂は訪れない。一也の手を取ることにしてもなお、夏生は家族に「手紙」を送ると云う。そのバランスが、上手く云えないのだけど凪良さんなのかもしれないなぁなんて思ったのだ。
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う~ん、アップするか非常に悩んだのだけど・・・私、凪良さんが好きなのですよね。今作は好みではなかったけれど、読めば何かしらのモノを与えてくれる作家さんだと思っています(無理矢理こちらが受け取ろうとしているだけな気もしますが・・・)。なので怖々上げてみました。一也の安っぽさも夏生の臆病さも、私の理想とする人間像とは程遠い二人なのだけど、愛やら恋やらのために身を持ち崩す二人を救った「男」の脇役とは思えない存在感は楽しめました。
あと、私の逃避行物の理想的結末は「テルマ&ルイーズ」だったりするのですよ(笑)楽園は二人だけのものという、ね。
そんなこんなで微妙な感想となりましたが、これからも楽しみにしています!