「災厄を運ぶ男」水原とほる

災厄を運ぶ男 (キャラ文庫 み 3-7)災厄を運ぶ男 (キャラ文庫 み 3-7)
(2010/04/27)
水原とほる

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倒産寸前の父の町工場を継ぎ、多額の借金を背負った秀一。金策に悩む秀一の前に現れたのは、大学で同期だった戸田。ヤクザまがいの金貸しを営む戸田は、「無期限で金を貸そうか」と囁いてくる。悪魔のような美貌の笑み―疎遠だった十年を埋めるかのように近づいてくる戸田に破格の条件を提示され、とうとうその手を取ってしまう秀一だが…!?情欲の焔を隠し持つ男と堕ちる宿命的な恋。

何作読んでも登場人物達の気持ちがサッパリ掴めずにいた水原作品。
これはもう相性の問題だと最近では読んでいなかったのだが、熱烈なコメントに背中を押されて(tさん有難うございます)久々に手を出してみたらとても面白かった!
以下、ネタバレ注意

***

惚れられたのが災難だと思って諦めろ、と云わんばかりの無体さで秀一に迫る戸田だけど、どこか一歩引いているようにも感じられるのだ。押し倒して抱いたところで秀一の心は決して自分に向きはしないとわかっているんだよね。狡猾な男なのにまめまめしく工場を訪ねてきたり食事に誘ったり、断られて拗ねて見せたりと、意外に子供っぽい普通の一面も持ち合わせていて可愛い。災厄を運ぶ男はしっかり「秀一に惚れている男」でもあるのだ。弱みを掴んで金を貸し、弱みをチラつかせて犯罪に引きずり込み、それでも時々見せる戸田の罪悪感や遠慮のようなものに、私は二人の関係の対等さを感じ取って萌えてしまった。

秀一の「平凡さ」が戸田にとっては、戸田の「異質さ」が秀一にとっては羨望だったのだ。ないものねだり、と云えばいいのかな。自分にはない魅力を互いに感じて目が離せない様を。その執着が戸田はわかりやすく欲望という形で表れているのだけど、秀一は違うんだよね。秀一は「流されている」自覚を持ちながら諦め半分で身体を差し出す。愛でも恋でもなく、無理矢理の凌辱でもなく、ただ本当に流されて抱かれてしまっただけという。そんな秀一の開き直ったふてぶてしさが、甘くない関係を際立たせていて好きだった。


ドタバタ逃避行の果てに、秀一は妻子を選ばなかった。
堕ちていく快感に抵抗することが出来なかったのだ。この選択が私はとても気に入った。
女の私が何をと笑われるかもしれないが、わかる気がしたのだ。水原作品で初めて感じる共感だ(笑)戸田は道を用意したかもしれない。だけど手を引きはしなかった。秀一は自らの足でその道を歩き出していたのだ。妻子の幸いそうな姿を見届け、何も声をかけずにそっと立ち去る秀一は「平穏」な人生の退屈さに気が付いてしまったのかもしれない。失踪する人間というのは、きっとこんな風にストンと日常を捨て去ってしまうのだろうなと思った。もしかしたら安定した仕事を捨てたときから前兆はあったのかもしれない。彼の本質は戸田側にあるということを、本人はおろか戸田でさえも気付くことはなかったけど、物語が始まったときから示唆はしていたのかもしれないな。離ればなれになった妻子が「不幸」であれば、絶対に秀一は妻子を選んだと思うのだ。女だった妻が母になり、自分の計り知れない強靭なものへと変化していく戸惑いが書かれる一節にもえらく共感してしまった。そして後半を読みながら「水原さん、その展開だけは絶対にやめてね…」と密かに心配していたことが杞憂に終わったことに心底ホッとした。それは何かと云うと、「妻に新しい男が出来ること」だったのね。秀一に最後の最後で責任転嫁や自己弁護だけは絶対にして欲しくなかったから。

秀一はすべての選択の責任が自分にあると繰り返し自問自答する。決して自己弁護をしない。傍から見れば災厄を運ぶ男にブンブンッに振り回されているような経緯なのに、それでも秀一は戸田のせいにはしないのだ。「お前のせいだ」と恨み節を云っても、次の瞬間には「選んだ(流された)自分が悪いのだ」と思いなおす。なんともカッコイイ男なんだよ!
秀一の潔ささえ感じる諦観と溜息にとてつもない色気を感じて、読んでいてクラクラしてしまった。

私はラストの大団円を読んでも二人の関係に「恋愛」という名前が付けられるようには思わない。強いて言うなら「共犯」という言葉がしっくりくるかな。執着を続ける戸田と、実際には戸田がいなくたって独りで大丈夫そうな秀一と。一方通行がたまに交差するような関係性がとにかくツボだった!そんなわけで彼らの行く末に「永遠」のようなロマンスは感じられなかったのだけど、どうせなら堕ちるところまで堕ちて末永く一緒にいて欲しい。とても面白かった!

良い本を読みました♪



さて、この話を読んで単純な私が思い浮かべた作品はこちら。

李歐 (講談社文庫)李歐 (講談社文庫)
(1999/02/08)
高村 薫

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画像が帯付きだ!(しかし、こんな台詞あっただろうか・・・)
村作品の中でもあからさまに男と男の愛憎が描かれるこちらの作品。
意外に思われるかもしれないが、実は私はそんなに好きではない。
でも工場労働、拳銃製造、逃避行と、なんとなく重なるアイテムが多かった(気がする)
こちらのラストのような超壮大なスケールにまでならなくても、戸田と秀一には「二人だけの楽園」を手に入れて欲しいと思った。それが「起きて半畳寝て一畳」のような楽園でもね!

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まさに!

こにちわ~。
感想を拝見していて「李歐」みたいだなーと思っていたら、最後に画像が出てきた!(笑)
あの話は結構好きなんですが、奥さんが作品から退場する経緯だけが、どうも納得いかなかったんですよ…。
yoriさんの感想だと、水原さんのお話はそこらが大丈夫そうなので、読んでみたいなと思いました。

こんばんにゃー

>かのさん♪

わーい、コメントありがとうございます!
こちらの水原さんはかなり本気でオススメですよ。
受けが最初から最後まで「男の人!」って感じで攻めに負けていないし、攻めも可愛げがありますし、水原作品への見方がちょっと変わった1作でした。

私もリオウは奥さんの顛末が納得いかないから好きではないのです。あと、まぁ、リオウへの「美」描写が凄いなと(笑)

ぜひぜひ読んでみて下さいまし~

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Author:yori
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