「恐怖のダーリン」菅野彰

恐怖のダーリン (新書館ディアプラス文庫)恐怖のダーリン (新書館ディアプラス文庫)
(2000/06)
菅野 彰

商品詳細を見る

きれいで、そして変わり者で有名だった高瀬兄弟の兄・偲が死んだ。残された弟・恵のことを以前から気にしていた亨は、どこかに感情を置き忘れてきたかのような彼を放っておけず、面倒を見る羽目に。雪の中、偲を呼び戻そうとしたのがいけなかったのかもしれない。でもまさか、ほんとに帰ってくるなんて、二人とも思わなかった。まして、死者に恋路を邪魔されるなんて…。スウィート・ホラー・ラブ・ストーリー。

センシティブ云々とか色々考えることを勝手に課題としている「菅野さん祭り」ですが、これはコメディとシリアスが上手い具合に合わさったとても面白い作品でした!そして今まで読んだ中でも一番BLからは遠い話かな。愛はあるけど「性愛」の匂いがまったくしない。そういった欲望が排除されているというわけではないのだが、彼らにはセックスよりも先に話すべきことが山のようにあって、で、気がつけば老夫婦のようになっていそう(笑)

偲はなぜ恵を溺愛したのか。常に側で弟を守り彼を傷付けるものを何人たりとも許さなかった偲の愛し方は、肉親の情としては度が過ぎる程で(実際、偲は下心含みで恵を愛していると云う)結果的に恵は兄以外の人間とまともなコミュニケーションを取ることが出来ないまま成人してしまう。それは周囲の人間からすれば明らかに間違った光景であるのだけど、兄弟のどちらもそれで納得をして幸福そうなので、誰も高瀬兄弟には近づこうとしなかった。でもある日突然偲は死んでしまった。
誰も近づこうとしない高瀬兄弟を亨も同じように遠巻きに眺めている一人だったが、彼は恵に気持ちがあり、兄がいなくなって何も出来ない恵の面倒を見ることになる。亨は私の好きな「世話焼き苦労性兄貴」のようでいて、少し違う。いや、亨の性格設定的には違わないのだけど、恵の想いはどこまでも死んだ兄の偲へ向かっているのだ。恋愛感情以前も超以前「他人だな」と恵が認識しているだけでもマシという二人の関係は、まったくのゼロから始まるのだ。

最初からある愛の謎は偲から恵に向かうものなのだ。亨は主人公でありながら脇役のようでもある。二人の関係を取り持ち、互いが最良の未来へ歩を進められるように促す名脇役だ。「なぜ偲が自分を愛してくれたのかわからない」と泣く恵の為に、亨は偲を生き返らせる儀式を行う(コメディですよ!)。そして偲は帰ってくるのだが、まぁ普通にゾンビなんだよね(笑)偲は自分の愛し方が恵にとって良いことばかりではなかったことも重々承知しているし、恵が何も出来ないのは自分の溺愛が原因だとわかっている。でも決して悪びれる様子はない。他人がどう思おうと、その方法が自分と恵にとって必要だという固い信念があるからだ。

偲は強烈なファザーコンプレックスを持っていて、父親を憎むことで生きていたような所がある。
愛することを知らなかった父親の代わりに、彼は恵にありったけの愛情を注ぐことを決めるのだ。それは、父親と同じような人間になっていく恐怖に抗う為に選択した彼なりの戦い方だった。自分のすべてに父親の影を感じて生きていた偲には「恵を愛すること」だけが、唯一の支えでもあったのだ。恵は望まれない子供で、父親にとってはどこまでも「施しを与えるべき子供」だった。愛情と同情の違いを恵は感じたのだろうか。恵は他者から「愛される」という感覚を失ったまま成長する。だったら自分が与えようと偲が決意することに、その愛情のかけ方の正否を周囲が判断することは出来ないと思うのだ。ただ、偲は常に不安を持っていた。それは自分の愛が真似事かもしれないという不安だ。

帰ってきたものの死者は死者。偲が振りまく災厄は近くに居る恵と亨に及ぶようになる。本当の別れが近付いていると察した偲は、最後に自分が死んだ朝に起きたことを告白するのだ。最初の動機は不純でも偲が「愛そう」という強い意思の元で恵を愛した事実には何の嘘もない。「幸せだったよ」と云う偲の言葉には本当にもう後悔はないのだろう。
偲が生きていれば、恵はやはり以前と変わらない庇護の元に赤ん坊のような精神のまま成長を止めていたかもしれない。そしていつか偲が死んだとき、今のように亨がいなければ、遅かれ早かれ偲の後を追ったかもしれない。でも、それでも偲の死は惜しまれるものなのだ。誰も望むことがなかった唐突な死は悲しい。悲しいなんて言葉じゃ足りないぐらい本当に悲しい。何を当然のことをと笑われそうだが、心からそう感じた。

死の物語の近くには生の物語を。榎田さんの「魚住くん」を読んだときも感じたが、バランスだとか綺麗事だとかではなくて、死と生は一緒に語られるべき題材なのだと思う。後半の生の物語があるから偲の死はやはりとてもとても悲しく残念なことなんだと認識出来る。生きていれば良かったのに、と誰もが思う死者への悼みだ。
恵は生まれたての赤ん坊が成長するかのように新しい感情を少しづつだが覚えている。彼らはこれからもたくさん対話をして生きていくのだ。偲と亨が精一杯注いだ愛情を恵が他者に返せる日はきっと近い。

良い本を読みました。


彼と彼女の間に何があったのか、語られることはないのだけどそういった意味でもBLとしては異質な物語だと思う。菅野作品を読んでいて疲れるのは、好き同士の想いが結実して性愛でもってハッピーエンド―という恋愛小説セオリーを完全に無視しているからじゃないかな。性愛を描かなくても愛は語れるという当然のことを確認する。でもそれって、実はとても困難なことにも同時に気付かされるんだよね。だから色々考えてしまう。

実は今回で一段落と思っていた菅野さん祭りですが、運良く絶版本を2冊手に入れることが出来たのでまだまだ続くかもしれません。予定は未定ですが(笑)
あっ、「青春残酷物語」の感想は書ければ書きたい!

コメントの投稿

非公開コメント

拍手ありがとうございます!

菅野さん祭りを楽しみにだなんて、どうもありがとうございます!とても嬉しいです!
菅野作品を語る自分は普段の3割り増しで気持ちが悪い自覚がありますので(笑)そんな言葉を頂けるとは思ってもいませんでした。
これからも書いてみたいと思います~。

また遊びに来てくださいませ。
ではでは~
プロフィール

yori

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード