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「地獄行きバス」明治カナ子

地獄行きバス (バンブー・コミックス 麗人セレクション)地獄行きバス (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
(2010/06/26)
明治カナ子

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「地獄行きバス」
「6月に同僚と結婚をする」突然、同棲中の修から結婚報告をされたカンちゃん。別れを切り出すと、修はカンちゃんと別れるつもりはないと言い出す。どうしても別れたいならば…と修がカンちゃんに出してきた条件は“一週間、ふたりで旅行に行く”だった―。

物欲の固まりのカンちゃんと、物欲の無い修。
互いの性格や本質を“真逆”だと認めながら「でも好きだよ」と云い合う二人。
恥ずかしいけどこの二人の有り様は、私の理想でもあるのだ。
修が過去をふり返り「この人のそばにいると安心するんだ」と思う場面が素晴らしい。自分の欠点だとカンちゃんが思っていることが、思いがけず修にとっての“幸福”に繋がっている。修はカンちゃんに「物がなかったよ」と笑うだけで詳しくは話さない(作中では)。空っぽだった昔の家のこと、物であふれ返る今の家のこと、修の中で幸福の形はカンちゃんといる現在なのだ。カンちゃんが不安に思っていたとしても、修はそれをよくわかっているんだよね。すごく幸せな二人だと思う。
愛情の表現の仕方は人それぞれで、誰かにとっては1のことが、相手にとっては10に感じられるようなことって間々ある。同じくらいの愛情表現を求めるのではなく、相手の表現レベルに合わせたものを自然に要求し、また、時には飛び越えて与えようと努力をしている。やっぱりとても理想的だ。これほど“完璧”(各々が内に抱える歪さを含めて)な恋人達の話はちょっとないと思う。心からオススメ。


が、今回表題以上に私が楽しみにしていたのは後半の「夜の女王」シリーズなのだ。

幼い頃眠っている間に両親に捨てられた貴志(きし)は、従兄弟の輝の家で育った。貴志はトラウマから目覚めたときに側に人が居ないとパニックを起こしていたが、社会人になり輝の家を出ることを決める。平日は睡眠剤で眠りにつき、週末はセックスと添い寝を兼ねた相手を買っている。最近気に入りのヒラ君は客である貴志に好意を持っているが、貴志は輝に従兄弟以上の気持ちを抱いているようでもあり―。

本誌を切り取って保管していた6年前の麗人掲載作品。今回の収録で何らかの改稿が行われることを期待していなかったと云えば嘘になる。開けた未来に繋がるラストの締めも、何もかもがとても私の好みなのだけど、あの二人にはあともう一歩近づいて欲しい気持ちがあったのだ。だけど…長く単行本にならなかった事と関係あるかは知る由もないが、後書によると明治さんにとってあまり良い思い出の作品ではなかったらしい。そういえば同人誌でも見かけることはなかったものね。

何度か書いた思い出話になるのだが、シリーズの最終話「未来には」を私は四国の小さな本屋で読んだのだ。大学4年の煮詰まった時期にとりあえず旅行にでもと思い足を運んだのが四国だった。で、色々見て遊んで、でも特に何も変わらなかった旅の思い出は結局明治さんなんだよ(笑)
実は最終話を読むまでこの話の行きつくところがまったくわからなかったんだよね。二人は恋人になるの?どうやって?でも何か違和感がある…とずっと思っていたんだ。
そして読み終わって放心状態になった。ただただ驚き感動していた。
貴志と輝が恋愛関係にならなかったことに。そして、貴志が輝は“家族”だと確認したことに。

これは貴志と輝の話ではない。
かといって貴志とヒラ君の話でもない。
最初から心に問題を抱えた貴志の話だったのだ。
“家族”という一度は失ってしまった関係が、きちんと自分にも存在すること。それを確認することが貴志の回復に繋がったのだ。そしてそれを勝ち取ったのは他ならぬ貴志自身なのだ。自立の為に家を出ても引っ越した先は隣のマンションで、家族の不在に怯えるかのようにオペラグラスで覗き見をする。貴志の行動は輝のストーキングをしているようにも取れるけど、本当は違うんだよね。自分を捨てた親のように、輝の家族がいつか黙って居なくなってしまうのではないかと怯えていたのだと思う。輝の近くに居てはダメだという真意には、欲望を覚えたら困るという理由以外にも、トラウマに縛られたままの自分に対して「このままでは良くない」という葛藤があったのだろう。彼は静かに一人で闘っていたのだ。

輝は彼の純粋さでもって貴志の手助けをするし、添い寝相手に買ったヒラ君がいなければ、貴志は輝を“家族”だと確認することは出来なかったかもしれない。誰も当て馬ではなく、脇役でもなく、そして恋人でもないのだ。上手く云えないのだけど、こんな関係性の話を読むことが出来るなんて幸せだなぁと心から思ったのだ。
ヒラ君との最後の夜が明けた朝、黙ってヒラ君が帰ってしまったにも関わらず、貴志はパニックを起こさなかった。ささやかなコマだけど確実に彼のトラウマは回復に向かっているのがわかる明るい場面だ。その後彼ら(貴志&輝orヒラ君)がどうなるのかはわからない。「(輝が)大きくならないとわからないよ」と呟く貴志だが、もう揺らぐことはないように思える。では、貴志はヒラ君の手を取っただろうか。驚き照れた笑顔を浮かべるヒラ君を見て、そうであるといいなと願いつつ本を閉じた。
最初の話を読んだときはヒラ君があまりに可哀相で、どうしてこんな惨めな子をと不思議に思ったのだ。かといって、貴志の母親が残した絵本を読む輝には家族としての情以外があるとは思えずに戸惑った。どこに着地するのかわからずにずっとフワフワしていた。だけど読了後にはきちんと幸福の場所にストンとおろしてくれる。それがさも当たり前であるかのように。私が思う明治漫画の魅力が凝縮された作品だ。大好き。


前々から感じていたのだが、私が愛する明治作品は、おそらく明治さんが「読みたい話」から遠いタイプの作品なのだろう。私が思う以上に明治作品の本質は明るい。キラキラして眩しいぐらいに明るい。過激な性描写は恋人同士のセックスをみっともなく、でもこれ以上ないぐらい幸福に見せてくれる。性行為はただの(でも重要な)コミュニケーションなのだと思い知らされる。その明るさが表に出ているか、底に沈んでいるかの違いなのだ。
大した違いではない。明治さん、大好きです。




サラッと書いたが、ヒラ君は高校生の身でありながら学費の為に年齢を偽って売春をしている。
明治さんがブログで仰っていたことだが、東京都の件の条例が可決されれば出版自体が危ういことになっていたかもしれないのだ。無事に刊行されて本当に良かった!


*近況ほーこく*
現在yori家のPCが絶不調でございます(今は家の人のノーパソを一時的に使用)
修理が必要なレベルなので、しばらく更新がとまるかと思います~。
でもすぐに復活するかもしれません(笑)そんな感じです。


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