「ただでさえ臆病な彼ら」菅野彰

19580091.jpg
東慶大学付属川崎高校の夏目真人は部員の誰からも慕われる陸上部のアイドル的存在。とりわけ真人を慕う村野武彦にとっては先輩後輩といった垣根を越えた恋の対象だった。やがて真人を巡るトラブルから、少しずつ二人の恋が始まってゆく。菅野彰がおくる青春ピュアストーリー。1995年7月刊行(桜桃書房)

運良く入手した菅野さんの絶版本は高校の陸上部を舞台にした群像劇だった。
久しぶりに感想書いたら長くなりました。絶版なのにスミマセン…。

同級生や先輩から「マコちゃん」と呼ばれ慕われる真人、彼に想いを寄せ唯一「先輩」と呼ぶ武彦、陸上部を引退した越智、ある事件を起こして留年をした矢代、真人に強い想いを寄せる柏木、真人が恋する武彦の姉、真人を取り巻く不穏な噂の原因となった元同級生陽子、真人を憎む陽子の親友亜弓。

ザッと書き出してみた登場人物の多さで、改めてこの話が恋愛よりも青春劇に比重を置いた話だということがわかった。中心になるのは部員達から慕われる陸上部部長の真人。強豪とは云えないながらもそれなりに活動を続けてきた陸上部と周囲では、真人のある噂に端を発した武彦と柏木の諍いが起こっていた。根も葉もない噂ではないことを知る武彦は、尾ひれが付いて誇張される話を否定も肯定もせず微笑む真人の真意を察して必死で彼を守ろうとする。しかし、柏木を始めとする他の部員達は納得がいかない。真人が好きだから、彼を貶めるような噂が流れるのが我慢ならないし、本人の口から否定の言葉が聞きたいと思っている。

噂になった過去の事件による怪我が原因で、真人は足を引き摺る癖が抜けない。実際に怪我をして走れなくなった時期はあったが怪我はとっくに治っているのだと真人は笑う。真人の過去に何があったのか。話はその謎(という程のものでもないが)を軸に展開すると同時に、飄々とした真人の内側にある消えないコンプレックスにも焦点を当てていく。小柄で華奢で女顔のいかにも“受け”な真人は人知れずそのことを気に病んでいた。女の子から「カワイイ」と云われてしまう自分のことを。武彦の姉文子はプロレスラーを生業としており、真人は真剣に恋をしていたのだろうが、文子に告白をした際に「わたしなら大丈夫って思うんでしょう?―侮辱よ、そういうのって」と返されてしまう。物理的に強い文子になら「カワイイ」と云われても傷付かないと思ったのかもしれない。何より真人は一度「守ってあげなくてはいけない存在」を手酷く傷付けたことがあり、普通の女の子(文子のように強くはないという意味)と関係する自信を失っていたのだ。

過去の事件には、先輩の越智、留年した矢代も深く関わっていた。事の発端はスポーツ特待生として入学したが実力を発揮出来ずに腐っていた矢代の交友関係による暴力事件だった。矢代は自分が招いた事態の罰を受けるかのように、留年を受け入れ陸上部にも在籍を続ける。越智は結果的に矢代が暴力事件を起こしたのは、自分が矢代の敵に捕まったからだと思っている。責任を取るという形で一度は逃げようとした矢代を学校と陸上部に留めたのは越智だったのだ。そして当時真人は中学生だったが、同じ付属校のジャージを着ていたという理由だけで矢代の敵に捕まり、足に怪我を負わせられる。その時真人は一人ではなかった。陽子という少女と一緒だった。真人の噂は、「彼が少女を置き去りにして逃げ、少女は暴行を受けて学校に居られなくなった」というものだったのだ。しかし事実は違った。暴力を受けたのは真人一人で、少女はその一部始終を目の前で見ていたのだ。

「カワイイ」と云われ続けた真人は、コンプレックスと戦いながらも、そう云われてしまう自分を諦め受け入れつつあったのかもしれない。だから陽子に「守ってあげるね」と云われた時も単純にうれしかったという。だけど、実際に陽子は暴力に晒された真人を守ることなど出来なかった。中学3年生という男女の体格にまだそれほどの差がない時期に、少女と少年が自らの性別の有り様に“誤解”をしてしまうのも無理はないことなのかもしれない。真人は足に傷を負うが、少女は心に傷を負う。自分が見誤ったばっかりに少女の心を傷付けてしまったことを真人はずっと悔んでいたのだ。陽子との苦い再会の果てに二人はもう会わないと約束をする。互いを縛る傷は消えることはないけれど、それでも前進をしようと決意するのだ。

真人は笑う。足の傷も自分のコンプレックスも隠して。それは、真人の抱える物の先に傷付く他者が存在するからだ。矢代や越智を守る為に笑い、陽子を守る為に笑い、部員たちを守る為に笑う。そんな精一杯な様に気が付いたのが武彦だった。読み始めた当初は主人公である武彦の“語り”が15、6才の少年のものとは到底思えず違和感があった。彼らの設定が“大学生”ならばもう少し武彦の心情に近づけるかもしれないのにと思っていた。でも、読了後も武彦に関しては変わらないのだけど、やっぱり彼らは“高校生”で正解なんだなと自然に思えたのだ。部活の先輩後輩関係や、劣等感、起きてしまった事件への責任の取り方諸々、とりわけ部員達から慕われる時の真人の“性別の無さ”のようなものに、私は高校時代の部活を思い浮かべてしまった(大学でサークルに所属しなかったので偏った意見だけど)。物事に白か黒かしかなくて、自分たちの納得する答えを聞きたいと騒ぎ立てる。無邪気な好意は時に残酷だ。でも、その好意に十分過ぎるほど救われている真人がいる。要するにみんな“若い″ということなんだよねっ(そんな結論!?)

真人と武彦の恋愛は一応の着地を見せる。が、私は正直…武彦の恋愛がこの話で成就する必要性は感じなかったかな。失恋をするか、ニアな雰囲気のままキス止まりで終わってくれても構わなかった。真人は武彦の気持ちをわかっているし、自分から誘いをかけるのだけど、その行動は彼が抱くコンプレックスと若干“負けた方に”折り合いを付けたように取れなくもないと思うのだ。真人が文子を好きだというエピソードと、武彦への気持ちは、微妙に繋がっているようで繋がっていないような気がしたのよね。行為の場面がなければ、良質なヤングアダルト小説だったと思う。そして、私が恋愛面で彼らよりも気になって気になって仕方なかったのは、矢代と越智なんだよね!出来上がっている二人(作中では触れないけど)の話が読みたいなぁ。後書によると越智が受けらしいが、私的には矢代が受けでも面白いのだけど。あー、でも主導権はすべて越智にありそうな関係性の二人だから、矢代はヘタレ攻めでいいかもね。

とまぁ、長くなったのに本は絶版という本当に申し訳ない感じですが面白かったです!


挿絵は金ひかるさん。16年前の作品なのでかなり懐かしい雰囲気の高校生達(笑)
新装版が出るとしたら(ないだろうが)挿絵は是非とも館野とお子さんにやって欲しい!
部活繋がりというのもあるかもしれないが、下の作品の雰囲気とちょっと近いものを感じたのだ。

変わる世界 (Dariaコミックス)変わる世界 (Dariaコミックス)
(2010/04/22)
館野 とお子

商品詳細を見る

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

yori

Author:yori
気がつけばいつもそばにBL

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード