「祈り」綺月陣

祈り (ガッシュ文庫)祈り (ガッシュ文庫)
(2010/07)
綺月 陣

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来栖薫は、憧れの大曽根麻薬取締官の元で仕事をすることになった。想像通り彼は仕事のできる紳士だった。そしていつしか二人は互いを意識し始める。しかしある日、薫の前に元恋人が現れて大曽根に誤解されてしまう。「薫を幸せにするのが私なら、もっと嬉しかったよ」いつまでもこの人を見つめていたかった。けれどもう側にはいられない。ヤクに侵された元恋人が関わる事件に気がついた薫は、事件解決のためにある決意をするが…。

2冊目になる綺月さんはタイトルと挿絵買いでしたが、ヘビーで面白い話でした。

『罪と罰の間』でも描かれたように、主人公の薫が犯した罪と、その罪に対する贖罪の方法が描かれていました。そこに攻めである大曽根の存在は、心の支えとして確かに必要ではあるのだけど、薫の中では「紙に描いたヒーロー」のようなもの。要するに、本当に憧れの存在として心の支えにしているに過ぎないのですね。薫は過去の自分と向き合いながら、他者に心を許さず、徹底して一人で戦っている。小動物のような活発さと明るさを見せる薫の造形に最初こそ戸惑いを感じたのだけど、それもすべて戦いのうちなのだとわかると、あとはもう引き込まれて夢中になっていた。
薫は早々に憧れの君を諦める。次に苦労して手に入れた仕事を諦める。でも、絶対に諦めないことがある。
そのたった一つの目的と矜持が彼を生かしている。冷静に狡猾に自分のすべきことを決め、機会を伺い、実行に移す。なんとも強靭な精神を持った男なのだ。

軸になる薬物中毒の描写は凄惨極まりないし、セックスドラッグに設定されているとはいえ、過剰摂取で死に至るくだりや何より中毒に堕とされていく過程はリアルでゾッとする。好きな人から与えられたものだから、身体の異常も依存も「愛故に」と信じたかった過去の薫と、それを徹底的に踏みにじり続けた元彼井原との関係は本当にリアル。薬物依存にされるという現実が痛みを伴って迫ってくる。
薫は自分が「弱かったから」井原につけ込まれ拒絶が出来なかったと思っている。その弱さこそが、自分が犯した第一の罪であり、法的な処罰を受ける第二の罪を、自分の姿が映ったDVDが流出することを恐れて井原を匿ったことだと位置付けている。弱さは罪に値するのだろうか?と思いながら読んでいたのだが、そう思わないと精神のバランスを保っていられなかった薫の気持ちが伝わってきて納得をしてしまった。井原が悪者なのは当然で、でもそれだけでは罪から逃れられない。自分自身に罪を課し「罰」を与えることで生きることができるのだ。その先にあるものが何か。それこそがこの話の核である「赦し」なのではないかな。

「祈り」とは誰から誰に、そして誰の為に捧げられる祈りなのか。その点を気にして読み進めていたのだが、「強くあれますように」と祈る薫の自分自身への祈りと、少なからず井原への「更生の願い」が含まれていることに感心した。井原のしたことは薫にとって何一つとして救いようがないものだけど、薬物を作り売捌く井原も同様に薬物中毒に陥っていることに気付いた薫は、井原にも救いをと祈るんだよね。そこにあるのは「情」のようなものだと薫は云うけれど、ひたすらに「責任」なのではないかなと思った。つまり、井原の救済を含めて罪への贖いだと自らに課しているんだよね。その一連の行動は決して自虐的ではないし、脆いようで強靭な薫はとても魅力的な人物だった。
井原に比べて大曽根の存在感はどうしても薄い。彼も彼なりに過去の罪を抱えて生きていて、それが追い詰められた薫の発見(精神的な意味で)につながる様子が少々急ぎ足に感じられたのが勿体ないかな。だけど3年待った大曽根の優しさは、過去の罪故だと考えると、それも納得をしてしまうのでした。

そして一点だけ蛇足は承知ですが、「薬物、ダメ。絶対。」の標語に便乗して、声を大にして「撮影(ハ○撮り)、ダメ。絶対。」と云いたいのでした。赦しを得ても記憶と証拠が半永久的に残り続ける。こんな残酷な罰はないと思うから。

萌えはないけど、重いテーマを真摯に扱った良い作品だと思います。


***

近況報告。
元気にちまちま二次的なアレコレをやっております。
もうちょい続けますが、感想も並行して書きたいです♪




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