「愛はね、」樋口美沙緒

愛はね、 (白泉社花丸文庫)愛はね、 (白泉社花丸文庫)
(2010/12/17)
樋口 美沙緒

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予備校生の望は、幼なじみの俊一に片想いをしている。けれど、ノンケの俊一は決して自分を好きにならないと知っている望は、その想いを胸の奥に閉じ込めるしかなかった。他の誰かを好きになろうと、駄目な男と付き合っては泣かされる日々を繰り返す望。一方、そんな望にうんざりしながらも放ってはおけない俊一は、いつも望の世話を焼いてきた。しかし、そんなふたりの関係が変わるときがやってくる。俊一の知人・篠原が、望と付き合いたいと言ってきたのだ。それを後押しする俊一に、抗えず従う望だが…。

初読み作家さん。
読み始めてからしばらくは登場人物の行動に苛々して何度も頭の中でちゃぶ台をひっくり返していたのですが、とても面白かったです。後書を読んで主人公が読者に一度「嫌われる」どころか、この話自体が一度「嫌われる」可能性を孕んでいたのだなと確認しました。それでも読後は読み始めが嘘のように爽快だったので、まんまと作者の手のひらの上だったわけで。

傍から見れば相思相愛の幼馴染二人は、これでもかと他人を傷付ける。恋愛における傷は誰に責任があるわけでもないし、そこで起きるどんなに残酷な結果もすべては喧嘩両成敗のように思っているのだが、やはり望の行動には賛成できない。好きでもない相手と「好きになるかもしれない」という希望的観測で付き合っては失敗を繰り返す望。彼は暴力は受ける方にも責任がある、なんて日頃の私が死んでも認めないようなことをちらっと思ってしまうような傷を恋人達に与え続ける。素直な、というかバカ正直な望は自分の気持ちが俊一にあることを隠すことが出来ない。男達はその度に激高して望を痛めつける。とても愚かな恋愛を繰り返す望を、「友達として」受け入れて、時々にはキスまでする俊一だって最初は理解不能だ。誰にも触らせたくないかのように望を庇護するその姿は、望の元彼が指摘するまでもなく「独占欲」なのに。

望は自分が寂しいから寂しい人を放っておけないのだと知っている。酷いことをされても云われても許してしまうのは、「強い」からではなくて、何も求めていない(期待していない)からなのではないかな。只ひたすら俊一の愛だけを欲しがる望にとって、その他大勢の男達の愛や優しさはあってもなくても大差ないものだったのだろう。
すべてを許しているようで、でも付けられた傷を決して忘れてはいない望の感情が爆発する場面がとても良かった。自分だけを安全地帯に置いて、ゲイ/ノンケと予め線引きして優しくする俊一の残酷さを初めて望が責めるのだ。どちらも若くて愚かで、相手が好きで好きで仕方ないけど自分の身も可愛くて、というエゴが上手に描かれていて感心してしまった。欲しいものを与えることが出来ないのなら離れた方がいいというのをわかっていながら、好きだから離れたくない。曖昧な関係でも、時に傷ついても、相手が好きだから。そのなりふり構わない愛情が私には眩しくて羨ましくもあったな。

望に転機を与えるのは俊一ではなくて、実の兄だ。誰からも愛されていないと嘆く望の根っこにあるのは家族との誤解とすれ違いで、その頑なな気持ちを氷解させるのもまた家族なのだ。家族の愛を知ることで、望は自分を愛する一歩と、俊一の愛の形に気が付く切っ掛けになっている。二人の未来は始まる手間で幕を閉じるのだが、とても優しい物語だ。「愛はね、」に続く言葉は何だったのだろう。小さな子供に母親がそっと教えてあげるような優しい言葉。自分のことしか見えていなかった望の世界は愛を知って姿を変える。気づかず側にあった愛への、それが答えなのかもしれないね。

樋口さんは人気の新人作家さんのようだが、たぶん、この「愛はね、」ではデビューは難しかったと思う。なぜならBLセオリーからギリギリ外れているから。でも、私はこの作品を読んでこんな(恋愛)関係未満の話をもっと読んでみたくなったよ。作中でも云われているように、この世に存在する愛情のすべてが「恋愛」と結びつくわけではもちろんないし、俊一のようなグレーゾーンに属する気持ちを抱えて右往左往する人間は多いと思うんだ。歩み寄る過程を丁寧に描いた今作は、主人公の心の成長に重きを置くことで、相手である俊一の気持ちは軽い置いてきぼりをくらった印象。でもそのすべてが、人が人を好きになることで生じる心の葛藤であるのだから、恋愛小説で描く価値は十分にあると思う(オマケでいいからラブラブな姿が見たいなぁと思ったことも事実ですが)。俊一が主役の続編を書く予定があるとのこと。楽しみに待ちたいと思います♪

良い本を読みました!


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