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「前略」トジツキハジメ

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「私、暗くてエロいか明るくてエロなしかどちらかしかムリです」(『初恋の病』後書より)

私にとってトジツキ先生の魅力はその「文学性」にあります。
言葉の遣い方、台詞廻し、リズム感が素晴らしく、ふとした瞬間頭に浮かぶ言葉の出処を辿るとトジツキ先生の漫画の台詞だったりするのです。明るい話と暗い話をバランス良く描く人ですが、私は断然「暗くてエロい話」が好きです。頭の言葉はトジツキ先生自身の傾向について語ったものですが、これはそのまま私の好みの話に当てはまります。
トジツキ先生は元々文学的素地が厚く、叶うのなら「哲学者」になりたかったと何かのインタビューで読んだことがあります。小説と漫画を並行して書いていて、小説がデビュー手前までいったので漫画を頑張ったというちょっと変わった人です。実は私がBL作家で唯一サイン会に行った方です。
基本的に短編の人なので心に残る話はどれも短いです。でも本当にトジツキ先生は言葉を生かすのが上手で、短い台詞ひとつを使って、その雰囲気や人物の視線と絡めてあっという間に世界を完成させてしまう。本当に凄い才能だと思います。きっと小説を書いても面白いはず。

表題の『前略』は高校生から恋文を送り続けられる郵便局員の話。前略で始まり草々で綴じられる世界は、ちょっと不思議な感覚です。郵便局員が手紙を送られるという設定自体がよく考えるととても面白い。リアルとファンタジーの境が曖昧なふわっとした雰囲気がトジツキ先生の明るい話の特徴だと思います。もちろん明るめの話も好きなのですが、やはり私の好みは断然同時収録の『暗夜行』なんですよ。高校生×先生(ストーカー)の救いようのない暗い話。商業発表されている作品の中では一番エロいと思います。この話に廃屋でのシーンは不可欠で、高校生の行き場のないドン詰った暴力性と先生の不気味さと相俟って耽美で背徳的な世界が完成されていて本当に素晴らしい。
先生に何かを期待しているかのような高校生の路の先行きを「後書」で読んだ時は衝撃でした。「後書」を鵜呑みにしなくてもよいですし捉え方は人それぞれですが、私はトジツキ先生に関しては先生の意向をくみ取りたいと思ってしまうのです(基本的に作品は作家のものだと思っているので作家の解釈は重要なんですけどね)。後を着いてくるのを知っていて着いてきてと誘う話の原型は川端康成の作品から案を得たそうですが、私は内田百の「花火」を思い出しました。ひたひたと迫る先生は実際とても不気味だと思いますし。
他に好きな短編は『不連続世界』に収録されている「蜜密三月」がぱっと浮かびます。あと圧巻は『初恋の病』の書き下ろし「絶句」!読んでいるこちらが絶句ものの凄い話です。
今後も目が離せない作家様です。

作品を嫌いになるのに作家の人間性は関係ないのですが、好きになるのにはちょっと関係あります。サイン会に行くことを決めたのは冒頭の言葉でトジツキ先生に惚れたからなのでした(笑)

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